警備業に関するコラム Series.08

警備員を現場のカスハラから守る
― 2026年義務化で変わる就業規則の設計と実務対応

2026年10月1日施行のカスタマーハラスメント防止措置は、すべての事業主が対象です。 就業規則だけでなく、相談窓口、現場のエスカレーション、悪質事案への対応まで、警備会社が整えておきたい実務を整理します。

根拠法令労働施策総合推進法 第33条
施行日2026年10月1日
対象すべての事業主
制度確認2026年9月7日

カスハラの法律上の定義と警備現場での考え方

重要:2026年10月1日施行・全事業主に措置義務 改正労働施策総合推進法は2025年6月11日に公布され、カスタマーハラスメント防止措置は2026年10月1日に施行されます。 2026年2月26日には、具体的な措置内容を示す厚生労働省告示第51号(カスタマーハラスメント防止指針)が公布されています。

法律・指針上のカスタマーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものです。

  1. 顧客等の言動であること
    顧客、取引先、施設利用者など、事業に関係を有する者からの言動であること。
  2. 社会通念上許容される範囲を超えていること
    警備員が従事する業務の性質その他の事情も踏まえて判断します。
  3. 労働者の就業環境が害されること
    身体的・精神的な苦痛等により、就業する上で看過できない程度の支障が生じること。
正当な苦情・要望と区別する必要があります 誘導方法への異議や施設対応への不満があっただけで、直ちにカスハラになるわけではありません。 要求内容、言動の手段・態様、継続時間、現場の状況などを踏まえて判断します。警備員に「苦情を拒否してよい」とだけ伝える運用は適切ではありません。

警備業では、次のような場面で現場対応が長期化・激化しやすいため、個々の警備員に判断を委ねない仕組みが重要です。

  • 交通誘導や通行規制に対する執拗な抗議、威圧的な言動
  • 施設利用者による長時間の拘束、居座り、不退去
  • 土下座、過度な謝罪、個人情報の開示等の要求
  • 無断撮影、SNS投稿を示唆した威圧、個人攻撃
  • 暴行、脅迫など犯罪に該当し得る言動

2026年10月1日施行で会社に求められる5つの対応

改正法と厚生労働省指針は、単に「カスハラ禁止」と掲げるだけでは足りません。 会社として実際に機能する体制を整備することが求められます。

REQUIRED 01

方針・対処内容の明確化と周知

カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針を明確にします。あわせて、どのように報告し、誰が引き継ぎ、どの段階で対応を打ち切るか等の対処内容を定め、労働者へ周知します。

REQUIRED 02

相談体制の整備

相談窓口または相談担当者をあらかじめ定め、労働者へ周知します。カスハラに該当するか微妙な段階や、発生のおそれがある段階でも相談できる運用が必要です。

REQUIRED 03

事後の迅速・適切な対応

事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた警備員への配慮、必要な場合の行為者対応、再発防止を行います。事案の内容や対応経緯を記録して再発防止に活用することも重要です。

REQUIRED 04

特に悪質な事案への抑止措置

過度な要求を繰り返すなど特に悪質な事案について、警察通報、警告、対応打切り等を含む対処方針を事前に定め、実際にその対応を行える社内体制を整えます。

REQUIRED 05

プライバシー保護・不利益取扱いの禁止

相談者・関係者のプライバシーを保護する措置を講じ、相談や事実確認への協力等を理由に解雇その他の不利益な取扱いをしないことを定め、労働者へ周知します。

警備業法上の「苦情処理簿」とは別に整理します カスハラ事案の中に、警備業務について依頼者、周辺住民、通行者等からの「苦情」が含まれる場合は、カスハラ対応記録だけでなく、警備業法第20条および警備業法施行規則第66条第1項第8号に基づく苦情処理簿への記録も確認する必要があります。 ただし、警備員への暴言・威嚇等があっただけで、警備業務についての苦情申出がない事案まで当然に苦情処理簿の対象になるとは限りません。両者は目的が異なるため、記録を混同しないことが重要です。
「就業規則に条文を追加すれば完了」ではありません 法律が直接義務づけているのは上記の雇用管理上の措置です。就業規則への明文化は有力な実装方法の一つですが、それだけで相談窓口や現場対応ルール、事後対応が整ったことにはなりません。
行政対応のリスク 労働施策総合推進法第42条により、必要に応じて助言・指導・勧告の対象となり、同法第33条第1項・第2項に違反して勧告を受けても従わない場合は、その旨が公表されることがあります。 また、同法第45条に基づき必要事項の報告を求められることがあります。

就業規則・対応マニュアル・運用ルールの役割分担

警備会社では、すべてを就業規則へ細かく書き込むより、変更頻度と現場運用を踏まえて文書を分ける方が扱いやすくなります。 「原則は就業規則・規程、現場判断はマニュアル、日々の連絡は運用ルール」という分け方が実務的です。

RULES

就業規則・ハラスメント規程

  • 会社の基本方針
  • 相談・報告ルールの基本
  • プライバシー保護
  • 不利益取扱いの禁止

MANUAL

現場対応マニュアル

  • 上長・管制への報告基準
  • 1人で対応を継続しない基準
  • 録音・録画の取扱い
  • 警察通報・発注者連携の基準

OPERATION

日常の運用

  • 相談担当者の指定
  • 事案記録の保存
  • 被害者へのフォロー
  • 事例を踏まえたルール更新
警備業では「発注者との役割分担」も決めておく 警備員が施設管理権限を持たない現場では、退去要請やサービス提供の打切りを警備会社だけで判断できない場合があります。 警備会社、発注者、施設管理者のうち誰が最終判断をするのか、緊急時の連絡先とあわせて現場ごとに整理しておくことが重要です。

就業規則・ハラスメント規程の条文例

第○条(カスタマーハラスメントへの対応)

1.会社は、顧客、取引先、施設利用者その他の事業に関係を有する者からの言動であって、従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するもの(以下「カスタマーハラスメント」という。)に対し、毅然とした態度で対応し、従業員を保護する。

2.従業員は、カスタマーハラスメントに該当するおそれのある事象に直面したときは、会社が定める対応手順に従い、速やかに所属長、管制担当者その他会社が指定する者へ報告するものとする。

3.会社は、カスタマーハラスメントに関する相談体制を整備し、事案の内容に応じて事実確認、従業員の保護、行為者への対応、再発防止その他必要な措置を講ずる。特に悪質な事案については、現場の権限及び契約関係を踏まえ、発注者等と連携し、警察への通報その他必要な対応を行う。

4.会社は、相談者及び関係者のプライバシーを保護し、従業員が相談を行ったこと、事実確認に協力したことその他カスタマーハラスメントへの対応に関与したことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行わない。

条文例は、そのまま全社共通で使う前提ではありません 交通誘導、施設警備、イベント警備では、現場責任者の権限、発注者との契約関係、管制体制が異なります。自社の報告経路・警察通報基準・発注者との役割分担に合わせて調整してください。

常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更する場合は、労働者代表等の意見聴取、所轄労働基準監督署への届出、変更後の就業規則の周知が必要です (労働基準法第89条、第90条、第106条)。 常時10人未満で就業規則の作成・届出義務がない事業場でも、カスタマーハラスメント防止措置義務そのものは対象となります。

施行前に整えること・施行後に運用すること

2026年10月1日の施行前に最低限の体制を整え、施行後は実際の相談・事案を踏まえて運用を更新していくことが重要です。 警備会社では、特に「誰に連絡するか」「誰が対応を引き継ぐか」「誰が最終判断をするか」を現場単位で明確にします。

施行前|2026年9月30日まで
現状確認と責任者の決定

過去のトラブル、既存のハラスメント規程、相談窓口、管制への報告ルートを確認し、カスハラ対応の責任者と代替担当者を決めます。

施行前|2026年9月30日まで
方針・相談体制・現場ルールを文書化

就業規則またはハラスメント規程、対応マニュアル、相談窓口案内を整備します。特に悪質な事案への警察通報、対応打切り、発注者連携の基準も整理します。

施行前|2026年9月30日まで
全従業員への周知と管理者の対応確認

全従業員へ方針・相談先・不利益取扱い禁止等を周知し、管制・現場責任者には事例を用いてエスカレーション手順を確認します。現場ごとに発注者側の緊急連絡先と判断権限も確認します。

施行後|2026年10月1日以降
事案対応・記録・再発防止

相談や事案が発生した場合は、事実確認、被害を受けた警備員への配慮、行為者対応、再発防止を実施します。警備業務についての苦情が含まれる場合は、苦情処理簿への記録要否も確認し、事例を蓄積して対応基準を更新します。

新任教育・現任教育との扱いを混同しない カスハラ対応の研修は、指針上の周知・啓発や実務教育として有効です。一方、カスハラ研修そのものが警備業法上の新任教育・現任教育の独立した法定教育事項として追加されたわけではありません。 同日に実施する場合も、法定教育として実施する内容・時間と社内研修部分を区分し、本来の法定教育科目をカスハラ研修で置き換えた扱いにしないことが重要です。

警備会社向けカスハラ対策チェックリスト

「必須」は改正法・指針上の措置義務に対応する項目、「推奨」は警備会社で実効性を高めるための運用項目です。

カスハラ対策・実務チェック
A. 方針・相談体制
必須カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針を明確にしている
必須カスハラの内容と現場での対処内容を労働者へ周知している
必須相談窓口・相談担当者を定め、全従業員へ周知している
必須相談者等のプライバシー保護と不利益取扱い禁止を定めている
B. 事案発生時の対応
必須事実関係を迅速・正確に確認する手順がある
必須被害を受けた警備員への配慮・事後対応を行う手順がある
必須特に悪質な事案への対処方針と実施体制がある
必須再発防止のための周知・改善を行う仕組みがある
C. 警備現場の運用
推奨警備員が1人で対応を抱え込まず、上長・管制へ引き継ぐ基準がある
推奨暴行・脅迫等があった場合の警察通報基準を定めている
推奨発注者・施設管理者の緊急連絡先と最終判断者が明確になっている
推奨録音・録画、事案記録、個人情報の保存・共有方法を決めている
推奨警備業務についての苦情が含まれる場合に、苦情処理簿への記録要否を確認する運用がある
D. 就業規則・周知
推奨就業規則・ハラスメント規程と対応マニュアルの内容が矛盾していない
必須就業規則を変更する事業場では、必要に応じて意見聴取・届出・周知を行っている
推奨管制・現場責任者が事例ベースでエスカレーション手順を確認している
主な根拠・確認資料: 労働施策総合推進法第33条・第42条・第45条、 「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 (令和8年厚生労働省告示第51号・2026年2月26日)、 労働基準法第89条・第90条・第106条、 警備業法第20条、警備業法施行規則第66条第1項第8号。 制度確認日:2026年9月7日。

警備業特化の就業規則・労務管理

就業規則と現場対応を、一度整理しませんか

カスハラ条項だけでなく、相談窓口、管制への報告ルート、警察通報・発注者連携まで、警備会社の実際の運用に合わせて確認します。

初回30分無料/全国オンライン対応