警備業の労働判例・裁判例|変形労働時間制・固定残業代

「翌月のシフトを配っている」だけでは、1か月単位の変形労働時間制が有効になるとは限りません。就業規則と勤務シフトの設計そのものが問われた警備会社の裁判例です。

さらに、日給に時間外・深夜割増を含めるという主張、朝礼・着替え・待機・仮眠の労働時間性も争われており、施設警備の勤務設計をまとめて点検できる裁判例です。

1か月単位の変形労働時間制勤務シフト固定残業代仮眠時間待機時間警備員
執筆・監修:山田紘大(社会保険労務士)内容確認日:2026年9月14日

30秒で結論

この判例のポイント

会社は1か月単位の変形労働時間制を採用していましたが、就業規則には当務の始業・終業時刻しか定められず、実際に使っていた日勤・夜勤の勤務区分や勤務割の作成・周知の仕組みが十分に規定されていなかったため、適用要件を満たさないと判断されました。また、日給に割増賃金を含むとの主張も、通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区分されていないとして採用されませんでした。一方、朝礼・着替え・仮眠時間や一部の待機時間については、具体的な運用を踏まえて労働時間性が否定されています。

判例情報

裁判所・日付
東京地方裁判所 民事第19部/平成28年9月16日
事件番号
平成26年(ワ)第13926号
事件名
未払賃金等請求事件(日本総業事件)
裁判結果
一部認容・一部棄却/確定
主な論点
1か月単位の変形労働時間制/割増賃金/仮眠・待機・着替え等
出典
労働判例1168号99頁

どんな事件だったのか

警備業を営む会社の元従業員が、在職中の未払賃金・割増賃金と付加金等を請求した事件です。労働条件通知書では午前9時から翌午前9時までの当務勤務が示されていましたが、実際には当務のほか日勤・夜勤を組み合わせたシフトが運用され、会社は月末に翌月のシフト表を配布していました。

主な争点は、①1か月単位の変形労働時間制を適用できるか、②日給に時間外・深夜割増賃金が含まれていたといえるか、③朝礼・着替え・待機・仮眠等が労働時間に当たるか、④付加金を命じるべきか、という点でした。

裁判所はどう判断したか

裁判所は、1か月単位の変形労働時間制について、就業規則で変形期間・起算日、各日・各週の労働時間、始業・終業時刻等を定める必要があり、月ごとに勤務割を作る場合には、各勤務の始業終業時刻、勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続・周知方法等を具体的に定めた上で、変形期間開始前までに各日の勤務を特定する必要があると整理しました。本件では就業規則に当務しか十分に定められておらず、実際のシフトにある日勤・夜勤等をカバーしていなかったため、変形労働時間制の適用を否定しました。

また、日給に割増賃金を含むとの会社主張についても、通常の労働時間に対する賃金部分と割増賃金部分が明確ではなく、日勤・夜勤の場合の内訳も不明であるとして退けました。朝礼は参加が任意、着替え等も会社の指揮命令下で行われたと認める事情が乏しいとして労働時間性を否定しました。仮眠は個室で自由な服装で休み、実際に起こされる頻度も少なかったこと等から、労働時間とは認められませんでした。1時間枠の待機についても、無線を外せ、施設外への食事・買い物も可能で、緊急対応が年1~2回程度であったこと等から、労働時間性が否定されました。

読み方の注意: 判例は個別の事実関係を前提とした判断です。事件名や結論だけを自社へ機械的に当てはめず、下記の「判断を分けた事実」と現在の法令をあわせて確認してください。

判断を分けた事実

就業規則と実シフトの不一致

就業規則では当務の始業・終業時刻を定めていた一方、実際には日勤・夜勤も運用されていました。

勤務割のルール不足

実際の勤務割が、就業規則に定めた勤務区分・組合せ・作成手続・周知方法に従う仕組みになっているとは認められませんでした。

固定残業代の区分不明

日給のうち通常賃金と時間外・深夜割増賃金の部分が明確に区分されていませんでした。

休憩・仮眠の実態

仮眠室は個室で、制服を脱いで休むことができ、仮眠中の対応頻度も少ないなど、労働から解放されていると評価できる事情がありました。

現在の実務で確認する法令

現在も、1か月単位の変形労働時間制は労働基準法32条の2が中心となり、就業規則の必要記載事項との関係では同法89条の確認が必要です。割増賃金は同法37条、時間外労働は同法36条が関係します。

重要: 「シフト表を毎月配布している」ことだけでは足りません。就業規則等に勤務区分・始終業時刻・勤務割作成のルールを整備し、そのルールに従って変形期間開始前に具体的な勤務を特定できているかを確認する必要があります。

警備会社に置き換えると

施設警備では、当務・日勤・夜勤・宿直など複数の勤務区分を組み合わせる会社が多くあります。この場合、就業規則には「勤務表による」とだけ書くのではなく、実際に使う勤務区分の始業・終業時刻、休憩時間、組合せの考え方、勤務表の作成・周知時期をできるだけ具体化しておく必要があります。

また、「日給○円に残業代を含む」という運用は、内訳が曖昧なままだと未払残業代リスクが高くなります。賃金規程・労働条件通知書・給与明細の三者を一致させることが重要です。

結論が変わり得るチェックポイント

  • 就業規則に実際に使用する当務・日勤・夜勤等の始業・終業時刻が網羅されているか
  • 勤務区分の組合せ、勤務割表の作成手続、確定・周知時期が定められているか
  • 変形期間開始前に各日の勤務が具体的に特定されているか
  • 固定残業代・固定深夜割増を採用する場合、通常賃金部分と割増賃金部分を明確に区分しているか
  • 仮眠・待機について、外出可否、無線携帯、呼出頻度、代替要員等の実態が規程と一致しているか

警備会社の実務チェック

  • 就業規則の勤務区分一覧と直近3か月の勤務表を突合する
  • 1か月単位の変形労働時間制の起算日・対象者・勤務割確定方法を条文化する
  • 日給・月給に割増賃金を含める場合は、金額・対象時間・不足額精算の方法を労働条件通知書と賃金規程に明記する
  • 仮眠・休憩・待機を現場ごとに棚卸しし、無線・外出・緊急対応の実態を記録する
  • 給与計算が変形労働時間制の有効性を前提に過少計算となっていないか検証する
実務上の考え方: 変形労働時間制は「制度を採用しているか」ではなく、「規程・勤務表・実際の運用・賃金計算が一体として要件を満たしているか」で点検するのが実務的です。

この判例を使うときの注意

本判決は、朝礼・着替え・仮眠・待機のすべてを一般的に労働時間ではないとしたものではありません。任意参加、着替えへの指揮命令の程度、外出の自由、無線携帯、代替要員、緊急対応頻度などの具体的事実を踏まえた個別判断です。反対の事情があれば結論は変わり得ます。

出典・確認資料

判例情報は日本法令の判例データを調査資料として確認し、判決本文の事実関係・判断枠組みを独自に要約しています。日本法令の要旨・評釈等の編集文章を転載するものではありません。

本ページは警備会社の労務管理に役立つ一般情報を提供するもので、個別事件についての法的助言を目的とするものではありません。具体的な判断は、契約・就業規則・勤務実態・証拠関係・現行法令等によって異なります。

執筆・監修:山田紘大|社会保険労務士

警備会社での現場・管理・経営実務を踏まえ、警備業法と労働法の双方から、警備会社の勤務実態に落とし込んで解説しています。

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