警備業の護身用具台帳・警備契約一覧の
保存期間はなぜ「無期限」といわれるのか
施行規則第66条に保存期間の記載がない2種類の書類。「規定がない=いつ捨てても良い」という解釈は危険です。
2書類それぞれのリスクの性質と、立入検査で指摘されやすい実務上の落とし穴を解説します。
本シリーズの総論編では、法定備付書類8種類のうち保存期間に法定規定があるのは4種類(警備員名簿・指導計画書・教育計画書・教育実施簿)のみであることを解説しました。残る4種類(確認票・護身用具台帳・警備契約一覧表・苦情処理簿)は施行規則上の保存期間規定がなく、「廃棄してよい期限が法令に明示されていない」状態です。
本記事ではこの中から護身用具台帳と警備契約一覧表を取り上げ、それぞれが「長期保存を前提とする運用が求められやすい」背景と、立入検査で指摘されやすい実務上の落とし穴を整理します。
法令上の事実:8種類の保存期間の比較
警備業者は、前項第1号に掲げる書類(警備員名簿)を当該警備員が退職した日から1年間保存しなければならない。同項第4号から第6号までに掲げる書類(指導計画書・教育計画書・教育実施簿)については、当該指導を行った日又は当該教育期が修了した日から2年間保存しなければならない。
条文上、保存期間が明示されているのは第1号・第4号・第5号・第6号の4書類のみです。第2号(確認票)・第3号(護身用具台帳)・第7号(警備契約一覧表)・第8号(苦情処理簿)には保存期間規定がありません。
| 号 | 書類名 | 保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1号 | 警備員名簿 | 事実退職後1年間 | 施行規則66条2項 |
| 2号 | 確認票(欠格事由確認書類) | 不明規定なし | — |
| 3号 | 護身用具台帳 | 不明規定なし | — ← 本記事 |
| 4号 | 指導計画書 | 事実指導日から2年間 | 施行規則66条2項 |
| 5号 | 教育計画書 | 事実教育期修了後2年間 | 施行規則66条2項 |
| 6号 | 教育実施簿 | 事実教育期修了後2年間 | 施行規則66条2項 |
| 7号 | 警備契約一覧表 | 不明規定なし | — ← 本記事 |
| 8号 | 苦情処理簿 | 不明規定なし | — |
「保存期間なし」が廃棄可を意味しない理由
保存期間の規定がない書類群(確認票・護身用具台帳・警備契約一覧・苦情処理簿)はいずれも、「事故・トラブル発生時に証拠として機能する価値が高い」という共通点があります。教育関係書類のように「一定期間が過ぎれば証拠としての必要性が低下する」という性質ではないため、廃棄期限を設けにくい書類群です。
護身用具台帳が長期保存を要する理由(推定)
護身用具(警戒棒・警戒杖・防刃チョッキ等)は、取り扱いを誤れば凶器となる危険な用具です。紛失・盗難・不正流出が発覚した場合には、「いつ何本購入し、現在どこにいくつあるか(または廃棄したか)」という履歴を遡って説明できる必要があります。刑事事件・行政処分に直結するリスクがあるため、廃棄期限を設けず長期にわたりトレース可能な状態にしておくことが求められると解されます(推定)。
業界団体の要望書等においても、護身用具台帳を含む保存期間規定のない書類について「警備業者が存続する限り保管し続けなければならない実態がある」として、保存期間の明確化・デジタル化を前提とした短縮検討を求める声が出ていることが確認されています(推定:要望書の具体的な番号・発行日は当事務所にて確認のうえ追記予定)。
警備契約一覧表が長期保存を要する理由(推定)
警備ミスによる損害賠償請求・契約内容をめぐる紛争は、契約終了後数年を経て発覚・提訴されることがあります(実務上のリスクに関する助言)。この場合、「過去にどこで・誰と・どのような内容の警備契約を結んでいたか」が民事上の証拠として重要になります。
【会社法の帳簿保存義務・事実】会社法第432条第2項は、株式会社に対して会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を10年間保存する義務を定めています。警備契約一覧表とその付随契約書類はこれに該当し得るため、「契約終了後10年」という社内ルールの根拠として、民法の消滅時効(10年)と会社法の保存義務(10年)を組み合わせることができます。
護身用具台帳の実務と落とし穴
施行規則第66条第1項第3号は「護身用具の種類ごとの数量を記載した書面」の備付を義務付けています。護身用具が皆無の場合も、「当営業所には護身用具を一切備え付けていない」旨を明記した書面を作成し、営業所に備え付けておく運用が実務上安全です(実務上の助言)。
護身用具台帳の実務で特に指摘を受けやすい落とし穴を整理します。
「数年前に警棒を10本購入」という記録がそのまま残っているが、現場で破損・廃棄し実際には8本しかない、というケースです。立入検査では帳簿記載数と実際の所持数を照合されます。購入・廃棄・紛失など増減があった都度、台帳を更新し履歴を残す運用が必要です。
本社営業所から他の営業所へ護身用具を一時的に移動させた場合も、移動の記録が必要です。「どの時点でどの営業所に何本あったか」が追跡できる管理が求められます(実務上の助言)。
現場で護身用具を紛失した場合、その事実を台帳に記録せず「なかったこと」にしている運用は危険です。紛失品が後日トラブルに使用された際、「紛失を把握し適切に対応した事実」の記録が会社の管理体制を示す材料になります(実務上の助言)。
警備契約一覧表の実務と下請け管理の注意点
警備契約一覧表は単なる「顧客リスト」ではありません。特に下請け(再委託)に関する記載については、警察庁の指針に基づく指導対象となっています。
記載単位と必須項目
事実 施行規則第66条第1項第7号は「警備業務に関する契約ごとに」記載することを求めています。1つの依頼者と複数の業種(交通誘導・施設警備等)の契約がある場合でも、契約が1つであれば1行にまとめる運用が施行規則の趣旨に近いとされています。
・自社が他社の下請けに入っている現場について、元請け警備会社名の記載がない
・再委託した現場について、委託先名・関連書類の整備がない
・終了した過去の契約を独自判断で廃棄し、現在稼働中のリストしか残していない
・自社が下請けとして入っている場合も元請け会社名を記載
・他社へ再委託した場合は委託先名・業務内容を記載し関連書類を整備(警察庁指針に基づく運用)
・終了した契約は「完了契約」として別ファイル等に移し継続保存
これは名板貸し・労働者派遣法・職業安定法違反の潜脱を防ぐための規制であり、下請け・再委託に関する記載漏れは立入検査での重点確認事項となります。具体的な記載内容・添付書類の範囲については、所轄警察の運用を確認してください(実務上の助言)。
社内保存ルールの構築と電子化の考え方
「廃棄してよい期限がない=際限なく紙が溜まる」という現実的な問題があります。法令上の根拠がない以上、廃棄が絶対に禁止されるわけではありませんが、廃棄するのであれば合理的な根拠が必要です。
① 民法の消滅時効(事実):改正民法(令和2年4月施行)の下での消滅時効は最長10年(民法第166条第1項)、不法行為は最長20年(同第724条)。
② 会社法第432条第2項の保存義務(事実):株式会社は会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を10年間保存する義務があります。警備契約一覧表やその付随契約書はこれに該当し得ます。
この2つを根拠に「契約終了後10年間保存」という社内ルールを設定することで、推定ではなく事実に基づいた根拠のある保存期間を設定できます。なお、重大事故が発生した現場の契約については、通常の目安を超えて個別に長期保存する必要があります(実務上の助言)。
ただし、対象書類・保存方法・立入検査時の提示方法の可否は、根拠法令および所轄警察の運用を確認した上で設計する必要があります。いずれの方法でも、立入検査当日に即時提示・印刷できる体制は必須です(実務上の助言)。
整備チェックリスト
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