警備業における夜勤・24時間勤務は、一般的な日勤シフトとは異なる複数の法的論点が重なります。
「日またぎ勤務の計算」「36協定の有効期間管理」「仮眠時間の一律除外」などに誤りがあると、
未払割増賃金や労働基準法違反のリスクが生じます。法律の基本構造を押さえ、実務を整備しましょう。
夜勤・24時間勤務では、「1日の労働時間」と「法定休日の時間帯」を分けて考えることが重要です。
🚨 日またぎ勤務の基本
継続勤務が2暦日にまたがる場合、労働時間の「1日」の計算では、
始業時刻の属する日の労働として1勤務を通算します。
例えば20時から翌8時まで連続して勤務する場合、午前0時で8時間計算をリセットするわけではありません。
ただし、有効な変形労働時間制が適用されている場合は、
あらかじめ8時間を超えて定めた所定労働時間まで直ちに法定時間外とはならない場合があります。
「始業から必ず8時間を超えた瞬間に25%割増」と一律に判断しないよう注意してください。
⚠️ 法定休日は別ルール:原則として暦日で判定
法定休日は原則として午前0時から午後12時(24時)までの暦日です。
法定休日前からの勤務が午前0時をまたいで法定休日に及んだ場合は、
法定休日の午前0時以降の労働部分が休日労働となります。
逆に、法定休日から始まった勤務が翌日の午前0時を超えた場合、
原則として翌日0時以降は休日労働ではなく、通常の時間外労働等のルールで判定します。
日・週の労働時間計算と、休日割増の判定は同じ切り方ではありません。
主な法定割増率は次のとおりです。
| 割増の種類 |
割増率 |
発生条件 |
根拠 |
| 法定時間外労働 |
+25%以上 |
法定労働時間を超える労働 |
労基法37条1項 |
| 月60時間超の法定時間外 |
+50%以上 |
1か月の法定時間外労働が60時間を超えた部分 |
労基法37条1項 |
| 深夜労働 |
+25%以上 |
22時〜翌5時の労働 |
労基法37条4項 |
| 法定休日労働 |
+35%以上 |
労基法35条の法定休日に行う労働 |
労基法37条1項 |
| 時間外+深夜 |
+50%以上 |
法定時間外労働が深夜帯に重なる場合 |
25%+25% |
| 月60h超時間外+深夜 |
+75%以上 |
月60時間超の法定時間外労働が深夜帯に重なる場合 |
50%+25% |
| 法定休日+深夜 |
+60%以上 |
法定休日労働が深夜帯に重なる場合 |
35%+25% |
📌 法定休日労働と時間外労働は重ねて55%とはしません
法定休日の労働は、通常の時間外労働とは別に扱います。
法定休日労働35%と時間外労働25%を単純に加えて60%とするのではありません。
深夜労働が重なった場合に、休日35%+深夜25%=60%以上となります。
また、月60時間超の算定には法定休日労働の時間は含まれません。
参照法令・行政解釈:
労働基準法第32条・第35条・第37条/昭和42年12月27日基収第5675号/
平成6年5月31日基発第331号/厚生労働省「深夜・休日労働の取扱い」
法定労働時間を超えて労働させる場合や法定休日に労働させる場合は、
原則として事前に36協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出る必要があります。
割増賃金を支払えば36協定が不要になるわけではありません。
また、36協定そのものが労働者に残業義務を発生させるものではないため、
実際の時間外労働命令については労働契約・就業規則上の根拠も確認します。
| 規制内容 |
上限値 |
備考 |
| 原則の限度時間(月) |
月45時間 |
原則 |
| 原則の限度時間(年) |
年360時間 |
原則 |
| 特別条項:年間 |
年720時間以内 |
時間外労働のみ |
| 特別条項:単月 |
100時間未満 |
時間外+休日労働 |
| 特別条項:複数月平均 |
2〜6か月平均80時間以内 |
時間外+休日労働 |
| 限度時間超の月数 |
年6か月まで |
原則45h超の月数 |
📌 警備業は2024年から初めて適用された業種ではありません
時間外労働の上限規制は、大企業では2019年4月、中小企業では2020年4月から原則適用されています。
2024年4月は建設業・自動車運転業務・医師等の猶予措置が終了した時期です。
警備業は一般業種として、2024年以前から上限規制の対象です。
⚠️ 1年単位変形の42時間・320時間は適用範囲に注意
36協定の原則的な限度時間が月42時間・年320時間となるのは、
1年単位の変形労働時間制で対象期間として3か月を超える期間を定める場合です。
「1年単位変形を採用したら必ず42時間・320時間」と一律に整理するのは不正確です。
⚠️ 「36協定の有効期間は法律上必ず1年」とは限りません
36協定では有効期間を定める必要があり、厚生労働省の記載例・Q&Aでは
有効期間を1年間とすることが望ましいとされています。
1年を超える有効期間を定めること自体が直ちに禁止されているわけではありませんが、
上限規制の「1年」の対象期間は起算日から1年ごとに管理されます。
実務では1年ごとに締結・届出する運用が一般的であり、少なくとも有効期間の空白を生じさせない管理が必要です。
参照法令・公的資料:
労働基準法第36条・第119条/労働基準法施行規則第17条/
厚生労働省「時間外労働の上限規制」「改正労働基準法に関するQ&A」
変形労働時間制は、長時間拘束の勤務を「何時間働かせてもよい勤務」に変える制度ではありません。
法定要件に従い、特定の日・週に8時間・40時間を超える所定労働時間をあらかじめ配分できる制度です。
1か月以内の変形期間を平均して1週間当たりの労働時間が原則40時間以内となるように設計します。
法定時間外労働は、日 → 週 → 変形期間全体の順で判定し、既に時間外とした時間を重複して数えません。
導入・運用
就業規則その他これに準ずるもの、または労使協定に必要事項を定めます。
月ごとの勤務割で各日・各週の労働時間を決める場合は、就業規則上の勤務区分・勤務割作成方法等に基づき、
変形期間開始前までに各日の勤務を具体的に特定しておく必要があります。
労使協定方式の場合は届出が必要です。
1か月を超え1年以内の対象期間を平均して、1週間当たり40時間以内となるよう労働日・労働時間を配分します。
1日の労働時間は原則10時間、1週は原則52時間が上限です。
注意
連続労働日数や、対象期間が3か月を超える場合の年間労働日数・48時間超の週の制約があります。
また36協定の42時間・320時間の限度は、前述のとおり対象期間が3か月を超える場合に適用されます。
🚨 シフトの事前特定と任意変更に注意
変形労働時間制では、対象となる日・週の労働時間を法定の方法であらかじめ特定する必要があります。
一度特定した勤務割を、単に欠員・受注状況など使用者側の都合で日常的に任意変更する運用は、
変形制の趣旨と整合しません。
ただし、シフト変更が生じたという一事だけで直ちに制度全体が無効になると一律に断定できるわけではありません。
就業規則の変更条項、変更理由、予測可能性、勤務割の具体性などを含めて判断されます。
参照法令・行政解釈:
労働基準法第32条の2・第32条の4/労働基準法施行規則第12条の2・第12条の4/
昭和63年1月1日基発第1号
警備業の24時間勤務では、仮眠・待機時間を一律に休憩扱いすることが大きなリスクになります。
判断の中心は名称ではなく、その時間に労働からの解放が保障されていたかです。
🚨 最高裁の判断枠組み
大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決)は、
不活動仮眠時間について、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかを客観的に判断し、
労働からの解放が保障されていなければ労働時間に当たり得るという枠組みを示しています。
実作業がなかったという事実だけで当然に休憩時間になるわけではありません。
実務では、少なくとも次の事情を確認します。
仮眠中に対応義務が残っているか
警報発報、電話、来訪者、巡回等への対応を仮眠者自身が行うことが予定されているかを確認します。
「緊急時は起きること」とされている場合、実際の呼出回数だけでなく、契約・規程・勤務指示上の義務も重要です。
対応義務あり → 労働時間方向の重要事情
交代要員が実際に対応を引き受ける体制か
1名体制か複数名体制かは重要ですが、人数だけでは決まりません。
複数名いても仮眠者を起こして対応させる運用なら労働時間方向の事情となります。
逆に、他の者が対応を全面的に引き受け、仮眠者が実際に業務から離れられる体制であれば、休憩と評価される余地があります。
実作業の必要性・頻度と運用実態を確認
発報・電話・呼出・巡回等の実績は重要な資料です。
ただし、発報回数が少ないという事実だけで直ちに休憩になるわけではありません。
労働契約上の対応義務がある場合には、実作業の必要がほとんど生じないといえるかなども含めて総合的に判断します。
📌 ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)
夜間警備員の不活動仮眠時間等が争われた事案です。
公刊された判例解説によれば、2名体制の期間は、他方の警備員が対応でき、発報もほとんどなかった等の事情から
仮眠時間の労働時間性が否定された一方、1名体制となった期間については労働時間性が認められました。
また、会社が調整手当を固定残業代として扱っていた点についても、
その取扱いでは基礎となる賃金が最低賃金を下回ること等から固定残業代としての効力が否定されています。
「人数」だけでなく、対応義務・実作業の必要性・賃金設計を個別に確認すべきことを示す事例です。
⚠️ 監視・断続的労働の適用除外は「許可」が前提
監視又は断続的労働に従事する者について、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合には、
労働基準法第41条により労働時間・休憩・休日等の規定が適用除外となることがあります。
ただし、通常の警備勤務であるという理由だけで自動的に適用される制度ではありません。
また、深夜労働の割増賃金は第41条による適用除外の対象ではありません。
許可を受けている場合でも、22時〜翌5時の深夜労働については原則として25%以上の深夜割増が必要です。
⚠️ 「宿直」と呼んでいるだけでは宿日直許可になりません
労働基準法施行規則第23条の断続的な宿直・日直勤務についても労基署長の許可が必要です。
通常の施設警備の夜勤・当務勤務を社内で「宿直」と呼んでいるだけで、
労働時間規制や割増賃金の適用がなくなるわけではありません。
参照判例・資料:
大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日・民集56巻2号361頁)/
ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日・令和4年(ワ)第31750号)/
労働基準法第41条第3号・労働基準法施行規則第23条
夜勤・24時間勤務では、労働時間の長さだけでなく、休憩・休日の確保方法と勤務前後の時間管理も重要です。
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、
労働時間の途中に与える必要があります。
休憩は労働から離れることが保障され、原則として自由に利用できる時間でなければなりません。
NG 仮眠中も電話・警報等への対応義務があるのに、名称だけで休憩扱いする。
対応 仮眠・待機の労働時間性を実態で判定し、真正な休憩時間を法定時間以上確保する。
法定休日は毎週少なくとも1日、または4週間を通じ4日以上必要で、
原則として午前0時から午後12時までの暦日で与えます。
NG 前日からの勤務が翌朝9時まで続いているのに、その翌日を当然に「1休日」と数える。
対応 法定休日を就業規則・勤務表で明確にし、暦日休日の原則に沿って確保する。
3交替制勤務等で一定の要件を満たす場合には、継続24時間を休日として取り扱える例外があるため、該当性を個別に確認する。
4週4休制を採る場合は、4週間の起算日も明確にする。
労働時間かどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかで客観的に判断します。
会社が事業場内で所定の制服への着替えを義務付けている時間や、
参加を義務付けた点呼・朝礼等は労働時間に該当します。
一方、あらゆる着替えや出勤前の行動が当然に労働時間になるわけではありません。
実務対応
制服着用場所、点呼開始時刻、引継ぎ・装備品受領等の実態を確認し、会社が義務付けている準備時間を勤怠に反映してください。
参照法令・公的資料:
労働基準法第34条・第35条/厚生労働省「労働時間の考え方」/
三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日)
以下は、変形労働時間制を適用しない前提で、
9:00〜翌9:00の拘束24時間のうち12:00〜13:00を真正な休憩とし、
実労働23時間とした単純化した計算例です。
法定休日には当たらず、月60時間超の時間外にも達していない勤務として整理しています。
【計算例】9:00〜翌9:00/休憩12:00〜13:00/実労働23h/基礎時給1,300円
12:00 〜 13:00
休憩
真正な休憩1h(労働時間に算入しない)
13:00 〜 18:00
通常賃金
実労働5h。ここまでで実労働8h
18:00 〜 22:00
×1.25
法定時間外4h
22:00 〜 翌5:00
×1.50
時間外25%+深夜25%=50%割増(7h)
翌5:00 〜 翌9:00
×1.25
法定時間外4h
※この例の法定時間外労働は合計15時間です。
※有効な1か月単位変形を適用し、この日に実労働10時間をあらかじめ所定として定めている場合は、
日単位ではその10時間を超える部分から法定時間外となります。ただし週単位・変形期間全体の判定も別途必要です。
※翌暦日が法定休日である場合は、午前0時以降の休日割増の判定が別途必要です。
※月60時間超の法定時間外に該当する時間が深夜帯に重なれば、割増部分は75%以上となります。
📋 夜勤・24時間勤務 実務対応チェックリスト
36協定・時間外上限
時間外・休日労働をさせる前に、事業場ごとの36協定を締結・届出しているか
36協定の有効期間と「1年」の起算日を管理し、空白期間がないか
特別条項の年720h、単月100h未満、2〜6か月平均80h以内、限度時間超は年6か月までを管理しているか
対象期間3か月超の1年単位変形を使う場合、42h・320hの限度時間を適用しているか
仮眠・手待ち・休憩
仮眠中の対応義務、交代体制、外出可否、呼出実績等を確認しているか
真正な休憩を6時間超45分、8時間超1時間以上、労働時間の途中に確保しているか
監視・断続的労働や宿日直の適用除外を使う場合、必要な労基署長許可を取得しているか
シフト・休日・賃金計算
変形労働時間制を使う場合、勤務区分・勤務割を法定方法で事前特定しているか
法定休日を原則暦日で確保し、夜勤明けを機械的に休日として数えていないか
法定休日をまたぐ勤務では、午前0時〜24時の休日労働部分を別途判定しているか
会社が義務付ける着替え・点呼・引継ぎ等を労働時間に反映しているか
深夜、時間外、月60時間超、法定休日の割増を重複関係も含め正しく計算しているか
1
日またぎの継続勤務は1日の労働時間計算では始業日の勤務として通算するが、法定休日割増は原則として休日の暦日0時〜24時で判定する
2
36協定は事前締結・届出が必要。有効期間は1年とすることが望ましいが、「法律上必ず最長1年」と単純化しない
3
月60時間超の法定時間外が深夜に重なれば50%+25%=75%以上の割増となる
4
仮眠・待機の労働時間性は、対応義務・交代体制・実作業の必要性等を総合して判断する
5
24時間勤務の賃金計算では、まず真正な休憩を除いた実労働時間を確定してから、変形制・休日・深夜・時間外を順に判定する
【参照法令・公的資料】労働基準法第32条〜第37条・第41条・第119条/労働基準法施行規則第17条・第23条/昭和42年12月27日基収第5675号/平成6年5月31日基発第331号/厚生労働省「時間外労働の上限規制」「深夜・休日労働の取扱い」「労働時間の考え方」「改正労働基準法に関するQ&A」
【参照判例】大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日・民集56巻2号361頁)/三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日)/ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日・令和4年(ワ)第31750号)
本ページは2026年10月15日時点の公的情報・公刊裁判例を確認して作成しています。夜勤・24時間勤務の適法性や割増賃金額は、変形労働時間制の有効性、法定休日、休憩・仮眠の実態、36協定、賃金規程等によって変わります。本記事は情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。
警備業特化社労士へのご相談
夜勤シフトの労務リスクは
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36協定の見直し・変形労働時間制の導入・仮眠時間の実態整理まで、
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