警備業の教育実施簿の正しい書き方と労務記録との整合管理|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム

警備業の教育実施簿の正しい書き方と
労務記録との整合管理

公安委員会の立入検査と労働基準監督署の臨検では、教育実施簿を異なる角度から確認します。
警備業法施行規則第66条と厚生労働省の行政解釈の両軸で、正しい記載方法と整合管理体制を解説します。

警備業法施行規則第66条1項6号
業務上義務付けの教育は労働時間に該当
立入検査・労基署対策
3点クロスチェック
📚 警備業コラム ― 法定備付書類シリーズ

警備業の教育実施簿は、「法定教育を実施した証明書」と認識されることが多い書類です。しかし実務上、教育実施簿は公安委員会への証明書であると同時に、「何時間・何日・誰が」という情報が労働時間・賃金の記録と完全に紐付く帳票でもあります。この二重の意味を正確に理解することが、立入検査と労務トラブルの両方を防ぐ出発点になります。

01

教育実施簿の法的位置付けと必須記載事項

📌 根拠条文(事実) 警備業法第21条第2項:警備業者は、警備員に対する教育を行ったときは、内閣府令で定めるところにより、その記録を作成し、保存しなければならない。

警備業法施行規則第66条第1項第6号:「年度ごとに、警備員教育に係る実施年月日、内容、方法、時間数、実施場所、実施者の氏名及び対象となった警備員の氏名を記録し、指導教育責任者及び実施者がこれらの事項について誤りがないことを確認する旨を付記した書類」

同条第2項:当該教育期が修了した後2年間保存。

施行規則が列挙する必須記載事項を整理すると以下のとおりです。条文上の要件であるため、これらが欠落した教育実施簿は立入検査で不備として指摘されます。

記載項目 記載時の注意事項
事実実施年月日・時間数 日付だけでなく開始・終了時刻と時間数を明記します。「〇月〇日 9:00〜12:00(3時間)」のように記載します。「午前中」「4月中旬」等の曖昧な表記は不可です。勤怠記録との突合に用いられるため、分単位の正確さが求められます。
事実内容・方法 教育の「科目名」と「時間配分」を記載します。教育計画書の科目と完全一致させることが重要です。「法令に関すること 60分/基本動作 60分/業務別教育 60分」のように内訳を明示します。方法は「講義」「実技」「eラーニング」等を明記します。
事実実施場所 「本社会議室」「〇〇現場 休憩室」等、特定できる場所を記載します。複数の場所で実施した場合は科目ごとに記載します。
事実実施者の氏名 教育を行った者の氏名を記載します。外部講師を招いた場合も氏名・所属を記載します。
事実対象警備員の氏名 受講した警備員全員の氏名を列挙します。欠席・途中参加・途中退席がある場合は備考欄に記載します(「10:30から参加」「11:00に退席」等)。欠席した警備員については補講の記録を別途作成します。
事実確認の付記(署名) 施行規則が明示する最重要要件です。指導教育責任者と実施者の双方が「誤りがないことを確認した旨」を付記(署名または記名押印)しなければなりません。いずれか一方のみでは不備となります。
参照法令:警備業法第21条第2項(記録の作成・保存義務)/警備業法施行規則第66条第1項第6号・第2項(記載事項・保存期間)
02

業務上義務付けられた教育時間の労働時間性と賃金支払義務

⚠️ 行政解釈(厚生労働省) 厚生労働省は「参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講」は、使用者の指揮命令下に置かれている時間として労働時間に該当すると解釈しています(参考:厚生労働省「労働時間の考え方:研修・教育訓練等の取扱い」)。

警備業者が法令上・業務上実施を義務付ける教育(新任教育・現任教育等)の受講時間はこの解釈に該当すると解されます。したがって、その時間に対して賃金(最低賃金以上)を支払う必要があります。さらに、その教育時間を含めて法定労働時間または所定労働時間を超える場合には、労働基準法第37条に基づく時間外・休日・深夜の各割増賃金の要否を個別に確認する必要があります(割増率は時間外25%以上・休日35%以上・深夜25%以上であり、状況によって異なります)。

公安委員会の立入検査が「教育が規定どおり実施されているか」を確認するのに対し、労働基準監督署の臨検調査は「その教育時間に適切な賃金が支払われているか」を確認します。教育実施簿は両者の調査で参照される帳票であり、その内容が勤怠記録・賃金台帳と整合していなければ、双方の調査で問題として指摘されるおそれがあります。

変形労働時間制を導入している警備会社での注意点

多くの警備会社が採用する1か月単位の変形労働時間制では、法定労働時間の超過判断が複雑になります。変形労働時間制を採用している場合、教育実施日が「その日の所定労働時間」を超えた時点で時間外労働となるか否かは、当日の所定労働時間の設定および対象期間全体の枠組みによって判断されます(労基法第32条の2)。教育時間に対する割増賃金の計算は、変形労働時間制の設計内容と照らし合わせた個別確認が必要です。

⚠️ 「任意参加・自己研鑽」としての扱いは要注意(推定) 「強制ではなく自由参加だから労働時間ではない」という解釈は、警備業法の法定教育には当てはまらないと解されます(推定)。警備業者が法令上実施を義務付けている以上、事実上の強制性があると評価されるおそれがあります。この点については、個別の状況に応じて割増賃金の支払要否を確認することをお勧めします。
参照法令・資料:労働基準法第32条(労働時間)・第37条(割増賃金)・第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)/厚生労働省「労働時間の考え方:研修・教育訓練等の取扱い」(当事務所確認日:2026年5月19日)
03

正しい書き方:日時・内容・受講者の記載ポイント

日時の記録:「いつ・何時間」を明確に

日付と時間数は勤怠記録との突合の基礎となります。以下の良い例・悪い例を参考にしてください。

✅ 良い例 実施日:2026年4月10日(木)
時間:9:00〜12:00(実施3時間、休憩なし)
場所:本社会議室
❌ 悪い例 実施日:4月中旬
時間:午前中(約3時間)
場所:事務所

内容の記録:教育計画書との一致が必須

教育実施簿の内容欄は、あらかじめ備え付けている教育計画書の科目区分と完全一致していることが求められます。「内容:警備業務全般」という記載では不十分です。以下のように科目と時間配分を明示します。

✅ 記載例(現任教育・基本教育分) 9:00〜10:00 警備業法・関係法令(法令に関すること)60分/講義
10:00〜11:00 警備業務の基本動作・装備品の取扱い(基本教育)60分/講義・実技
11:00〜12:00 施設警備業務の要領(業務別教育)60分/講義

※内容が多岐にわたる場合は「別紙(教育カリキュラム)参照」とし、別紙を添付する方法も有効です。

受講者欄:欠席・途中参加も正確に記録

受講者の氏名リストに加え、欠席・途中参加・途中退席があった場合は備考欄に明記します。「〇名全員受講」という記載だけでは、欠席者の有無が検査で確認できません。なお欠席した警備員については、その後の補講の記録も別途作成することが必要です。

参照法令:警備業法施行規則第66条第1項第6号(記載事項の詳細)・第1項第5号(教育計画書との整合)
04

立入検査・労基署調査で発覚する4つの不整合リスク

教育実施簿と労務記録の不整合は、公安委員会の立入検査と労働基準監督署の臨検調査の双方で指摘されるおそれがあります。以下は実務上のリスクパターンです(推定)。

1
教育実施簿には「5時間の教育実施」、勤怠記録は「公休(無給)」
教育実施簿に記録された日に、タイムカードが打刻されていない・公休扱いになっているケースです。公安委員会からは教育記録の信頼性が疑われるおそれがあり、労働基準監督署からは休日労働の賃金処理の適否について指摘されるおそれがあります。業務として教育を実施した日は勤怠システムへの記録と適切な賃金処理が必要です。
2
現場勤務後の「居残り教育」で割増賃金が未計算
通常現場勤務(9:00〜18:00・実働8時間)の後に、営業所へ戻って現任教育(19:00〜21:00・2時間)を実施したケースです。この2時間は、当日の所定労働時間や法定労働時間の超過状況に応じて時間外労働となる可能性があります。さらに深夜時間帯(22:00〜翌5:00)に及ぶ場合は深夜割増、法定休日であれば休日割増の検討も必要です。教育手当として定額を支給していても、時間外・休日・深夜の各割増賃金との関係を個別に確認する必要があります(労基法第37条)。
3
「教育をした側(指導教育責任者)」の労働時間が記録されていない
受講する警備員の勤怠は記録しているのに、教育を実施した指導教育責任者本人のタイムカードが打刻されていないケースです。指導教育責任者が管理監督者(労基法第41条第2号)に該当しない場合、教える側の時間も労働時間となります。管理監督者への該当性は役職名ではなく、経営参加の実態・出退勤の自由・待遇の相応性という3要件の実態で判断されます。
4
教育実施簿の記録は「10時間」、勤務表では当日別現場に配置
教育実施簿と勤務表(配置表)を突合すると、教育を行ったとされる日時に、同じ警備員が別の現場に配置されていることが判明するケースです。公安委員会の立入検査では受講した警備員本人へのヒアリングが行われることがあり、「教育を受けた記憶がない」という証言が出るリスクがあります。教育の「帳尻合わせ」は記録の信頼性を失わせ、厳しく指導されるおそれがあります。
05

3点クロスチェック体制の構築

教育実施簿の整合管理を確実に行うためには、「教育実施簿」「勤怠記録(タイムカード・シフト表)」「賃金台帳(給与明細)」の3帳票をセットで管理する体制が必要です(実務上の助言)。

1
シフト作成時:教育を「勤務」として計画に組み込む
教育を現場の隙間時間や事後の「調整」で行う運用にすると、労働時間・賃金との整合が取りにくくなります。月間シフト作成の段階で、現任教育の日程を「教育勤務日」として所定労働時間内に組み込むのが理想です。変形労働時間制の場合は、当該日の所定労働時間および対象期間全体の枠組みの中で教育時間を適切に位置付けます。
2
実施・記録時:タイムカードと教育実施簿の「時間」を完全一致させる
教育実施簿に記載した「開始時刻・終了時刻・時間数」と、タイムカードの打刻時間を給与計算締め前に突合します。数分のズレも放置せず正確に記録します。受講者・実施者ともに打刻が必要です。
3
給与計算時:教育時間の賃金処理と就業規則の整備
教育時間を通常の労働時間として扱うか、別途「教育手当」を設けるかは賃金規程の設計によりますが、いずれにせよ法定労働時間外・法定休日・深夜時間帯に及んだ部分については、労働基準法第37条に基づく各割増賃金の支払要否を個別に確認する必要があります。就業規則および賃金規程に「警備員教育時間に対する賃金の取り扱い」が明記されているか確認してください。明記されていない場合は規程の整備が必要です。
💡 電子化での管理:立入検査当日の即時提示体制を整える 警備業向け管理システムで教育実施簿と勤怠データを連携管理するツールも増えています。電磁的記録による保存については政省令改正で認められていますが、根拠条文の詳細は当事務所にて確認のうえ追記予定です。いずれにせよ、立入検査当日にシステム障害・担当者不在等の理由で即時提示できない状態は「備え付けなし」とみなされるリスクがあります。印刷出力できる体制と、複数人がアクセスできる権限設定が必要です。
06

教育実施簿の整備チェックリスト

📋 教育実施簿 作成・管理チェックリスト
記載事項(施行規則第66条第1項第6号の要件)
実施年月日・開始・終了時刻・時間数が明記されているか(「午前中」等の曖昧表記はないか)
教育内容が科目名・時間配分で記載され、教育計画書の科目と一致しているか
教育方法(講義・実技・eラーニング等)が明記されているか
実施場所が特定できる形で記載されているか
実施者(講師)の氏名が記載されているか
対象警備員全員の氏名が記載されているか
欠席・途中参加・途中退席がある場合、備考欄に記載されているか
指導教育責任と実施者の双方が「誤りなし」の確認署名・記名押印をしているか
勤怠記録・賃金との整合(3点クロスチェック)
教育実施日に受講者・実施者ともにタイムカードの打刻・勤怠記録があるか
教育実施簿の時間帯と勤怠記録の時間帯が一致しているか
勤務表(配置表)において、教育実施時間帯に別現場への配置がないか
教育時間に対する賃金が給与明細・賃金台帳に適切に反映されているか
法定外時間外・法定休日・深夜に及んだ場合、各割増賃金の要否を個別確認したか(労基法第37条)
変形労働時間制を採用している場合、教育時間が変形の枠組みの中で適切に処理されているか
保存・提示体制
教育期修了後2年間の保存が確保されているか(施行規則第66条第2項)
電子保存の場合、立入検査当日に複数人が即時出力できる体制があるか
1
教育実施簿の必須記載事項は施行規則第66条第1項第6号に明示。特に「指導教育責任者と実施者の双方の確認署名」が条文上の要件(事実)
2
業務上義務付けられた法定教育の受講時間は、使用者の指揮命令下に置かれる時間として労働時間に該当すると解される(厚生労働省行政解釈)
3
法定外時間外・法定休日・深夜時間帯に及ぶ教育には労基法第37条に基づく各割増賃金の要否を個別確認が必要。変形労働時間制の場合は当日の所定労働時間および対象期間全体の枠組みで判断
4
指導教育責任者が管理監督者(労基法第41条第2号)に該当しない場合、教育を「した側」の時間も労働時間として管理が必要。該当性は実態で判断される
5
教育実施簿・勤怠記録・賃金台帳の3点クロスチェックを給与計算締め前に行う体制が、立入検査・労務トラブルの双方を防ぐ(実務上の助言)
【根拠資料・確認日】警備業法第21条第2項(記録の作成・保存義務)、警備業法施行規則第66条第1項第6号・第2項(当事務所確認日:2026年5月19日)、労働基準法第32条・第37条・第41条第2号・第32条の2、厚生労働省「労働時間の考え方:研修・教育訓練等の取扱い」(当事務所確認日:2026年5月19日)。電磁的記録による保存に関する政省令改正の根拠条文については当事務所にて確認のうえ追記予定です。本記事は当事務所が上記資料をもとに整理・再構成したものです。個別案件への法的判断を保証するものではありません。
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