夜勤・24時間勤務・イベント集中型のシフトが当たり前の警備業では、
通常の「1日8時間・週40時間」の法定労働時間をそのまま適用すると、
現実のシフト管理と制度の間に大きなズレが生じます。
このズレを合法的に解消する手段が変形労働時間制ですが、
導入要件や勤務割の特定方法を満たしていなければ、変形労働時間制の適用が認められないことがあります。
変形労働時間制は、あらかじめ特定した日・週について1日8時間・1週40時間を超える所定労働時間を設定しても、
変形期間を平均して1週間当たりの労働時間が原則40時間以内となる範囲では、
そのあらかじめ特定した時間までを法定時間外労働としないことができる制度です。
警備業では、夜間を含む当務勤務や繁閑差のある現場で活用されます。
📌 変形労働時間制が活きる警備業のシーン
施設警備の当務勤務:
9:00〜翌9:00のような長時間拘束の勤務でも、真正な休憩時間を除いた実労働時間について、
1か月単位の変形労働時間制により、あらかじめ8時間を超える所定労働時間を設定することができます。
ただし、労働基準法第34条の休憩、第35条の休日等の規制がなくなるわけではありません。
交通誘導・雑踏警備:
あらかじめ繁忙日を10時間、閑散日を短時間勤務とするなど、業務量に応じて所定労働時間を配分できます。
ただし、後から業務都合で自由に長短を入れ替える制度ではありません。
夜間を含む長時間勤務:
仮眠・待機時間が労働時間に該当するかを実態に基づき判定した上で、労働時間に当たる部分を変形制の対象時間として管理します。
なお、労働基準監督署長の許可を受ける「宿日直勤務」は別制度であり、通常の夜勤・当務勤務と混同しないよう注意が必要です。
🚨 変形制が有効でない場合の割増賃金リスク
変形労働時間制が有効に適用されない場合、原則として実労働時間が1日8時間・1週40時間を超えた部分が法定時間外労働となります。
深夜(22時〜翌5時)に時間外労働を行った場合は、通常の時間外割増25%以上に深夜割増25%以上が加わります。
また、1か月60時間を超える法定時間外労働は時間外割増率が50%以上となるため、
その時間が深夜帯であれば割増部分は合計75%以上となります。
なお、休憩として労働からの解放が保障されている時間は労働時間に含めません。
「24時間拘束=24時間すべて時間外」と機械的に計算するものではなく、まず実労働時間を正確に把握することが前提です。
参照法令・資料:
労働基準法第32条・第32条の2・第32条の4・第34条・第35条・第37条/
厚生労働省「変形労働時間制の概要」
警備業で使われることの多い1か月単位・1年単位の変形労働時間制を、要件と実務上の違いで比較します。
1日の上限
変形制固有の数値上限なし
※休憩・休日・36協定等は別途遵守
1週の上限
変形制固有の数値上限なし
※変形期間平均は原則週40時間以内
連続労働
変形制固有の連続日数上限なし
※法35条の休日確保が必要
導入方法
就業規則その他これに準ずるもの、または労使協定で定める。
労使協定方式は届出が必要。
常時10人以上の事業場は就業規則への規定・届出も必要
向くケース
月ごとの勤務割を組む施設警備、当務・夜勤を含む勤務
1週の上限
原則52時間
対象期間3か月超は48時間超の週にも追加制限
連続労働
原則6日/特定期間は1週1日の休日確保(実務上最大12日連続)
導入方法
労使協定の締結・届出が必須。
常時10人以上の事業場は就業規則への規定・届出も必要
36協定限度
対象期間が3か月超の場合:月42時間・年320時間
3か月以内の場合:原則 月45時間・年360時間
向くケース
年間の繁閑を事前に見通せる交通誘導・雑踏警備等
⚠️ 「1年単位=必ず42時間・320時間」ではありません
36協定の限度時間が月42時間・年320時間となるのは、
労働基準法第32条の4の1年単位変形について対象期間が3か月を超える場合です。
対象期間が3か月以内であれば、原則の限度時間は月45時間・年360時間です。
特別条項を設ける場合でも、年720時間、時間外・休日労働を合わせた単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内等の上限規制は別途適用されます。
📌 1年単位で対象期間が3か月を超える場合の追加制約
対象期間が3か月を超える場合は、年間換算の労働日数上限が原則280日となるほか、
①48時間を超える週が連続3週以下、②対象期間を3か月ごとに区分した各期間で48時間を超える週の初日が3以下、
という制約があります。1日10時間・1週52時間の上限、連続労働日数の制限も併せて確認してください。
📌 対象期間の途中で採用・退職した人
1年単位の変形労働時間制の対象者が対象期間の途中で採用・退職した場合は、
労働基準法第32条の4の2に基づく賃金の清算が必要になる場合があります。
実際に適用された期間を平均して1週間当たり40時間を超えた時間について、割増賃金の精算が必要です。
参照法令・資料:
労働基準法第32条の2・第32条の4・第32条の4の2・第36条/
労働基準法施行規則第12条の2・第12条の4・第17条/
厚生労働省「1年単位の変形労働時間制」
変形労働時間制を導入しても、時間外労働がなくなるわけではありません。
1か月単位の変形労働時間制を例にすると、法定時間外労働は次の3段階で判定します。
1年単位でも基本的な判定構造は同様です。
日単位の時間外
あらかじめ8時間を超える労働時間を定めた日は、その定めた時間を超えて労働した時間が時間外。
それ以外の日は、8時間を超えて労働した時間が時間外。
例:所定10時間の日は10時間超から、所定7時間の日は8時間超から法定時間外となります。
定めた時間 or 8hを超えた部分
週単位の時間外(①で計上済みを除く)
あらかじめ40時間を超える労働時間を定めた週は、その定めた時間を超えて労働した時間が時間外。
それ以外の週は、40時間を超えて労働した時間が時間外。
①で既に時間外とした時間は重複して数えません。
定めた週時間 or 40hを超えた部分(①除く)
変形期間全体の時間外(①②で計上済みを除く)
変形期間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外です。
①②で既に時間外となった時間は重複して数えません。
原則の総枠:40時間 × 変形期間の暦日数 ÷ 7
期間総枠超(①②除く)
⚠️ 所定外でも「法定時間内」の時間は別に整理
例えば所定7時間の日に8時間勤務した場合の7時間超〜8時間までの1時間は、
原則として労働基準法第37条の「法定時間外労働」ではないため、法定の25%以上の時間外割増は発生しません。
ただし、その時間に対する賃金の取扱いは労働契約・就業規則・賃金規程等に従って処理する必要があります。
「法定内だから無給でよい」という意味ではありません。
📌 所定時間超から会社独自に割増を払う運用も可能
法定義務より有利な取扱いとして、「所定労働時間を超えた時間から25%増しで支払う」などの社内ルールを設けることは可能です。
ただし、これは法定の3段階判定そのものを変更するものではありません。
採用する場合は、就業規則・賃金規程等で支給条件を明確にしてください。
参照法令・資料:
労働基準法第32条の2・第32条の4・第37条/
昭和63年1月1日基発第1号/
厚生労働省「1年単位の変形労働時間制に関するQ&A」
変形労働時間制は、就業規則・労使協定を作るだけで完成する制度ではありません。
実際の勤務割・周知・残業計算まで法定要件と整合している必要があります。
NG 01制度の根拠規定・必要な届出が足りない
1か月単位は、就業規則その他これに準ずるもの、または労使協定により制度を定めることができます。
労使協定方式を採る場合は所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
また、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働時間・始業終業時刻等を就業規則に規定し、就業規則を届け出る必要があります。
1年単位は労使協定の締結・届出が必須で、常時10人以上の事業場では就業規則への規定・届出も必要です。
対応 事業場の人数、採用する制度、労使協定方式の有無を確認し、就業規則・協定・届出をセットで点検する。
NG 02勤務割を事前に特定せず、業務都合で随時変更している
1か月単位では、変形期間の各日・各週の労働時間をあらかじめ具体的に特定する必要があります。
月ごとに勤務割を作る警備会社では、就業規則に勤務区分の始業・終業時刻、組合せの考え方、勤務割表の作成手続・周知方法等を定め、
そのルールに従って変形期間開始前までに各日の勤務割を具体的に特定することが重要です。
一度特定した労働日・労働時間を、単に「現場が変わった」「欠員が出た」等の理由で使用者が日常的に任意変更する運用は、変形制の趣旨と整合しません。
休日振替等が許される場面は別途要件を確認してください。
対応 シフト作成期限・周知方法・変更手続を就業規則に明記し、「後から自由に組み替える」運用を避ける。
NG 03変形期間の総枠だけ見て残業を判定している
「月の総労働時間が177.1時間以内だから残業なし」といった判定は誤りです。
日単位・週単位で既に法定時間外となる時間があれば、変形期間の総枠内でも割増賃金が必要です。
最後に期間総枠を確認し、日・週で計上済みの時間を除いて追加の時間外を判定します。
月60時間を超える法定時間外労働については50%以上の割増率が適用され、深夜労働に重なる場合は深夜割増も加算します。
対応 日 → 週 → 変形期間の順に判定し、二重計上せずに集計できる勤怠・給与計算フローを作る。
NG 04仮眠・待機を名称だけで休憩扱いしている
仮眠・待機時間が労働時間かどうかは、名称ではなく労働からの解放が保障されているかで判断します。
仮眠中も警報・電話・来訪者対応等の義務があり、実質的に使用者の指揮命令下から離れていない場合は、労働時間と評価される可能性があります。
一方、実態として労働から解放されている真正な休憩・仮眠時間は労働時間に含めません。
したがって、24時間拘束勤務について「拘束24時間すべてを所定労働時間にする」「仮眠は一律すべて除外する」のいずれも適切ではなく、実態に即して区分する必要があります。
対応 仮眠・待機中の対応義務、外出可否、交代要員、実際の呼出頻度等を確認し、労働時間に当たる部分だけを正確に勤務時間へ反映する。
1か月単位の変形労働時間制では、変形期間を平均した1週間当たりの労働時間が原則40時間以内となるよう、
所定労働時間を設定します。警備業は、週44時間の特例措置対象事業場として一般に掲げられている
商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業には該当しないため、原則40時間で計算します。
1か月を変形期間とする場合の総枠は、次の式で計算します。
📌 総枠の計算式
40時間 × 変形期間の暦日数 ÷ 7
※以下の表は厚生労働省資料に合わせ、0.1時間単位で表示しています。
| 暦日数 |
総枠 |
該当する月の例 |
備考 |
| 28日 |
160.0時間 |
2月(平年) |
|
| 29日 |
165.7時間 |
2月(うるう年) |
|
| 30日 |
171.4時間 |
4・6・9・11月 |
|
| 31日 |
177.1時間 |
1・3・5・7・8・10・12月 |
|
⚠️ 総枠以内でも日・週の時間外は発生します
総実労働時間が上記の総枠以内であっても、
あらかじめ特定した日・週の労働時間を超えて法定時間外となった時間は割増賃金の対象です。
期間総枠の判定では、日・週で既に時間外として計上した時間を除いて重複計上を防ぎます。
📌 1年単位の36協定限度は対象期間に注意
対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者については、
36協定の原則的な限度時間が月42時間・年320時間となります。
対象期間が3か月以内なら、原則 月45時間・年360時間です。
参照法令・資料:
労働基準法第32条の2・第32条の4・第36条/
厚生労働省「1か月単位の変形労働時間制」
変形労働時間制は、制度の根拠、勤務割の事前特定、実際の運用、残業計算まで一体で確認する必要があります。
📋 変形労働時間制 実務チェックリスト
制度・就業規則・労使協定
1か月単位の場合、変形期間・起算日・対象者・各日各週の労働時間等を、就業規則その他これに準ずるもの又は労使協定で定めているか
1か月単位を労使協定で導入している場合、協定を所轄労基署へ届け出ているか
常時10人以上の事業場では、実際の勤務区分・始業終業・勤務割作成方法等が就業規則に適切に反映され、届出・周知されているか
1年単位の場合、必要事項を定めた労使協定を締結し、対象期間開始前に届け出ているか
36協定の有効期間・対象期間の起算日を確認し、期限切れや空白期間がないか
勤務割・事前特定
1か月単位では、変形期間開始前までに各日の勤務割が具体的に特定されているか
就業規則に、使用する各勤務区分の始業・終業時刻、組合せの考え方、勤務割作成手続・周知方法が定められているか
勤務割確定後に、業務都合だけで日常的に労働日・労働時間を任意変更する運用になっていないか
1年単位で区分期間方式を使う場合、最初の期間以外は各期間初日の30日前までに過半数代表等の同意を得て書面特定しているか
1年単位で1日10時間・1週52時間、連続労働日数等の上限を確認しているか
対象期間3か月超の1年単位では、280日上限・48時間超週の追加制限を確認しているか
36協定・時間外賃金
対象期間3か月超の1年単位の対象者について、36協定の原則限度を月42時間・年320時間として管理しているか
日 → 週 → 変形期間全体の順で法定時間外を判定し、重複計上していないか
変形期間の総枠以内という理由だけで、日・週の時間外を見落としていないか
月60時間超の法定時間外について50%以上の割増率を適用しているか
深夜(22時〜翌5時)・法定休日労働の割増を時間外労働と区別して正しく計算しているか
当務・仮眠・途中入退社
休憩・仮眠・待機時間を名称ではなく、労働からの解放が保障されているかという実態で判定しているか
真正な休憩時間を除いた実労働時間が、勤務割・勤怠・賃金計算で一致しているか
1年単位の対象期間途中で採用・退職した者について、必要な割増賃金の清算を確認しているか
1
変形制は「平均週40時間以内」だけでは足りず、対象日・週の労働時間を法定方法で事前特定する必要がある
2
1か月単位は就業規則等または労使協定で導入できるが、労使協定方式は届出が必要。常時10人以上では就業規則の整備・届出も確認する
3
1年単位の36協定限度が月42時間・年320時間になるのは、対象期間が3か月を超える場合
4
時間外は日・週・期間の3段階で判定し、「月の総枠以内=残業なし」とは判断しない
5
仮眠・待機時間は実態で労働時間性を判定し、拘束時間を一律に全部含める・全部除外する処理を避ける
【参照法令・公的資料】労働基準法第32条・第32条の2・第32条の4・第32条の4の2・第34条・第35条・第36条・第37条・第89条/労働基準法施行規則第12条の2・第12条の4・第17条/昭和63年1月1日基発第1号/昭和63年3月14日基発第150号/厚生労働省「1か月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」「変形労働時間制の概要」/大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日)
本ページは2026年10月15日時点の公的情報を確認して作成しています。変形労働時間制の有効性は、就業規則・労使協定の文言だけでなく、勤務割の作成・特定・周知方法や実際の運用によって判断が変わります。本記事は情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。
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