警備業の同一労働同一賃金、説明できない格差が招くリスク|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム Series.11

「正社員だから手当あり」では通らない
― 警備業の同一労働同一賃金、説明できない格差が招くリスク

均衡待遇・均等待遇の判断基準と、
警備会社が今すぐ見直すべき手当・賃金設計を解説します。

不合理な待遇差リスク
パート有期法第8条・9条
均衡待遇・均等待遇
賃金規程の整備

「うちはずっとこのやり方だから。正社員と非正規で差があって当然。」
この認識がトラブルの原因になります。同一労働同一賃金は「賃金を一律同額にする」制度ではありません。しかし「説明できない格差」は不合理な待遇差として違法になります。最高裁判決で過去の賃金差額の支払いを命じられた事例も確定しています。警備業では特に手当の設計が問われやすい業種です。

01

法律の基本:2つの禁止ルール

根拠法はパートタイム・有期雇用労働法(以下「パート有期法」)です。大企業は令和2年4月、中小企業は令和3年4月から全面適用されています(事実)。

Article 8 / 均衡待遇
不合理な待遇差の禁止
職務内容・責任の程度、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情を考慮して、不合理な差をつけてはならない。待遇差に合理的な説明ができるかどうかが問われます。
Article 9 / 均等待遇
差別的取扱いの禁止
①の3要素がすべて同じ正社員と非正規社員の間で、雇用形態を理由とした差別は一切禁止。条件が同じなら同じ取扱いが必要です。
📌 判断は「待遇ごと」に行う(事実) 基本給・各種手当・賞与・退職金・休暇・教育訓練など、個々の待遇ごとに不合理かどうかを判断します。「トータルで見れば差がない」という主張は通りません(日本郵便事件・最高裁令和2年10月13日判決等)。
⚠ 均衡待遇の3要素を正確に理解する パート有期法第8条の比較要素は①職務内容(業務の内容+責任の程度)職務内容・配置の変更範囲その他の事情の3つです。「責任の程度」は①に含まれる要素であり、独立した第4の要素ではありません。実務上の誤解が多い点です。
参照法令:パートタイム・有期雇用労働法第8条(均衡待遇)・第9条(均等待遇)・第14条(説明義務)/同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日厚生労働省告示第430号)
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手当・待遇ごとのリスク判定表

日本郵便事件等の最高裁判決を踏まえた、警備業での実務判断の目安です(推定:判例の趣旨に基づく実務的整理)。

待遇項目 リスク 警備業での実務ポイント
通勤手当 交通費の支出は雇用形態に関係ない。非正規にも原則として同額支給が必要
夜勤・深夜手当 同じ夜間勤務をしているなら、正社員・非正規を問わず同条件での支給が必要
現場・危険手当 業務の危険度・過酷さに応じた手当。同じ現場に入るなら同額が原則
資格手当(指教責等) 中〜高 同じ資格を保有・活用しているなら同額が必要。「正社員だから」は理由にならない
精皆勤手当 中〜高 欠勤防止・出勤奨励の目的は雇用形態を問わない。同じ要件なら同額支給が原則
賞与 「全く支給しない」はリスクが高い。支給目的(業績貢献・功労報酬等)を明文化し、非正規の貢献度合いに応じた合理的な設計が必要
退職金 長期勤続を前提とした制度。非正規でも勤続が長い場合は相応の考慮が求められる傾向
制服・装備品の貸与 低〜中 業務遂行のために必要な物品の貸与は同条件が原則。「正社員のみ良質な装備」は問題になる可能性あり
教育訓練 低〜中 法定教育(警備業法上の教育)は全員対象。法定外のスキルアップ研修を正社員のみに実施する場合は説明が必要
参考判例:日本郵便事件(最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決・民集74巻7号)
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警備業特有の考え方:「合理的な差」とは何か

同一労働同一賃金は「全員同額」を求めるものではありません。合理的な差は認められます。警備業では業務の難易度・危険度・責任の差が明確に存在するため、説明の根拠を整備することが対応のポイントです。

✅ 差が認められやすい要素
  • 転勤・配置転換の有無:広域で現場を異動する正社員と、特定現場のみのパートでは責任・拘束度の差として説明できる
  • 業務の難易度・危険度:施設常駐と雑踏・イベント警備では手当に差を設けることが合理的
  • 管理業務・隊長職の兼務:シフト管理・教育実施・顧客折衝を担う場合は役割の差として説明できる
❌ 差が認められにくい要素
  • 「正社員だから」「長年の慣行だから」という理由のみ
  • 同じ現場・同じ業務をしているのに手当の支給基準が雇用形態で異なる
  • 支給の趣旨・目的が就業規則・賃金規程に一切明記されていない
🚨 説明義務への備えが必須(パート有期法第14条・事実) 非正規労働者から待遇差の理由の説明を求められた場合、会社は説明しなければなりません。説明できない場合は不合理な格差とみなされるリスクがあります。「聞かれてから考える」ではなく、今のうちに書面(待遇比較表・説明書)で整理しておくことが重要です。
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今すぐ確認すべき実務チェックリスト

📋 同一労働同一賃金 対応チェックリスト
賃金規程・制度の確認
通勤手当・夜勤手当・危険手当の支給基準が雇用形態で異なっていないか確認したか
資格手当(指導教育責任者手当等)が正社員のみに支給されていないか確認したか
賞与の支給趣旨(業績連動・功労報酬等)が賃金規程に明文化されているか
退職金制度が非正規に一切適用されていない場合、長期勤続者への対応を検討したか
運用・書類の確認
正社員と非正規の「職務の違い」を書面(職務分掌・業務マニュアル等)で説明できるか
待遇差の理由を説明するための書面(比較表・説明書)を準備できているか
法定外の教育訓練を正社員のみに実施している場合、その理由が説明できるか
非正規から待遇説明を求められた場合の対応フローが決まっているか
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まとめ

同一労働同一賃金は「賃金を横並びにする」制度ではありません。警備業では業務の難易度・危険度・責任の差が明確に存在するため、合理的な差は維持しながら「説明できない格差」をなくすことが対応のゴールです。

1
判断は「賃金全体」ではなく待遇ごとに行う(最高裁で確定済み)
2
通勤・夜勤・危険手当など業務遂行に直結する手当はリスクが高い
3
差を設ける場合は「趣旨・目的」を就業規則・賃金規程に明記する
4
説明義務(パート有期法14条)への備えとして待遇比較表を整備する
📌 採用力・定着率の改善にも直結 賃金制度の棚卸しは、採用競争力の強化・既存スタッフの定着率改善にも直接つながります。この機会に一度、雇用形態をまたいだ待遇の点検をお勧めします。
【参照法令・資料】短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第8条・第9条・第14条/同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年12月28日厚生労働省告示第430号)/日本郵便事件(最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決・民集74巻7号)

本コラムは情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。具体的な労務問題については専門家にご相談ください。
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