1,300万円超の支払命令事例に学ぶ 警備員の仮眠時間問題|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム Series.09

1,300万円超の支払命令事例に学ぶ
警備員の仮眠時間問題

「仮眠は休憩扱い」という認識が未払割増賃金請求の引き金になる。
最高裁の判断基準と2件の判例から、今すぐ確認すべき実務ポイントを解説します。

支払命令 約1,338万円
労働時間 vs 休憩時間
未払割増賃金
判例解説

1,338万円
ジャパンプロテクション事件(令和6年)
なぜこうなるのか
未払賃金+付加金で
請求額が「2倍」に

未払割増賃金が認定されると、裁判所は同額の付加金を命じることができます(労基法第114条)。 さらに固定残業代が無効と判断された場合、請求額はさらに膨らみます。

「夜間の仮眠時間は休憩扱いにしているから、残業代は発生しない。」
この認識が未払割増賃金請求の引き金となるケースが、警備業界で増加しています。 本稿では実際の判例をもとに、警備会社が今すぐ確認すべき実務ポイントを解説します。

01

「休憩時間」が成立するための3要件

労働基準法第34条は、休憩時間に次の3要件を定めています。 警備業で特に問題になるのは、②の「自由利用の原則」が 実態として確保されているかどうかです。

労基法第34条の休憩3要件(事実)
一斉付与の原則 ― 全員に同一時間帯に与えること
※警備業等は労使協定により例外的に適用除外が可能(労基法第40条・労基則第31条)
自由利用の原則 ― 労働者が完全に業務から解放されること
※警備業で最も問題になる要件。「仮眠」と書いても実態として義務があれば不成立
労働時間中の付与 ― 労働時間の途中に与えること
⚠ 書面上の記載だけでは不十分 就業規則やシフト表に「仮眠時間」と記載されていても、 それだけでは適法な休憩とはなりません。 実態として業務からの解放が保障されているかどうかが 法律上の判断の核心です。
根拠法令:労働基準法第34条(休憩)・第37条(割増賃金)・第114条(付加金)、労働基準法施行規則第31条
02

最高裁が示す「労働時間」の判断枠組み

労働時間かどうかの根本基準は、最高裁判所が明確に示しています。

最高裁の判断枠組み(事実:最判平成12年3月9日・平成14年2月28日)
A
「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働時間にあたる
B
実作業をしていない仮眠中でも、「労働からの解放が保障されていなければ」労働時間
C
「労働からの解放が保障されていない」とは、 労働契約上の役務提供が義務付けられている状態を指す
📌 実務上の要点 「名目が仮眠・休憩であっても、実態として指揮命令下にあれば労働時間」 というのが法律の考え方です。 手順書・口頭指示・訓練など、形式を問わず対応義務が 実質的に存在する場合は労働時間と認定されるリスクがあります。
引用判例: 最判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁(大星ビル管理事件)、 最判平成14年2月28日・民集56巻2号361頁(大林ファシリティーズ事件)
03

警備業に関する主要判例2件

警備業の仮眠時間問題に関する近時の重要判例2件を解説します。 特に①の事案は固定残業代の無効まで認定された点で、 業界全体に対する警鐘となっています。

ジャパンプロテクション事件
東京地判 令和6年5月17日 令和4年(ワ)31750号 労働経済判例速報2568号3頁

施設警備員が夜間に管制業務(電話対応・モニター監視・出入管理)を担当した事案。 体制の変化(2名→1名)によって仮眠時間の労働時間性の評価が分かれた。

休憩時間
令和2年3月まで(2名体制): 機械警備の発報がほぼ皆無の状態で、もう1名が対応できる体制が整っていた。 仮眠者に実質的な対応義務がなかったとして労働時間に該当しないと認定。
労働時間
令和2年4月以降(1名体制): 電話対応・モニター監視を1人で担い、規程に「イレギュラー対応有」と明記されていた。 実作業が少なくても労働時間に該当と認定。
追加認定
固定残業代も無効と判断: 基本給13万円の時給換算が最低賃金(1,013円)を下回るとして、 調整手当(固定残業代)の定めが無効と認定された。
⚖️
未払賃金 669万円 + 付加金 669万円 = 合計 約1,338万円 の支払命令
イオンディライトセキュリティ事件
千葉地判 平成29年5月17日 平成27年(ワ)1447号 労働判例1161号5頁

ショッピングモールの施設警備員が仮眠・休憩時間の割増賃金を請求した事案。 同一会社の異なる現場(N店・E店)で判断が示された。

労働時間
N店(1名体制): 防災センター離席不可・着替え不可。8か月間で仮眠中の緊急対応が4回あり。 仮眠時間・休憩時間ともに労働時間と認定
労働時間
E店(3名体制): 3名体制でも、発報時は仮眠者を起こして対応させる運用が実在。 手順書に「防災センターを無人にしない」と明記。仮眠中の対応実績が年2〜4回。 仮眠時間を労働時間と認定。
⚠ 重要:「複数名体制だから安心」は危険な誤解 E店の事案が示すとおり、体制の人数よりも「仮眠者への対応義務が実態として存在するか」が決定的な判断要素です。 2名・3名体制であっても、仮眠者を起こして対応させる運用が 手順書・口頭指示・訓練などで存在すれば労働時間と認定されます。
04

労働時間性の実務判断チェック表

2件の判例から導かれる実務上の判断ポイントを整理します (推定:判例の趣旨に基づく実務的整理)。

判断要素 🔴 労働時間になりやすい 🟢 休憩時間になりやすい
体制人数 1名体制 2名以上、かつ非番者に対応義務なし
対応義務の実態 手順書・運用・口頭指示で対応義務あり 文書上・運用上とも対応義務がない
移動・行動の自由 防災センター離席不可・私服不可 行き先告知のみで外出可能
対応の実績記録 発報対応・電話応対の実績が存在する 客観的な記録で対応が皆無に近い
規程・マニュアル 「イレギュラー対応有」「無人にしない」等の記載あり 対応義務を示す記載が一切ない
📌 固定残業代の「落とし穴」 固定残業代(みなし残業手当・調整手当等)を設定している場合でも、 基本給÷月平均所定労働時間が都道府県の最低賃金を下回っている場合は無効 と判断される可能性があります(ジャパンプロテクション事件)。 固定残業代の有効性は基本給の水準と一体で確認してください。
05

今すぐ確認すべき実務チェックリスト

📋 仮眠時間・休憩時間の適法性 確認チェックリスト
A. 就業規則・契約書
変形労働時間制の規定に始終業時刻・シフト作成手続・周知方法が明記されているか
仮眠時間が「有給か無給か」就業規則上で明確に定められているか
緊急対応発生時の時間処理ルール(労働時間算入・振替休憩付与等)が条文化されているか
固定残業代の基礎となる基本給 ÷ 月平均所定労働時間が都道府県最低賃金を上回っているか
B. 現場運用・記録
仮眠者を起こして対応させる運用が(口頭指示・訓練・手順書を含め)存在しないか
手順書・マニュアルに「対応義務」を示す文言が含まれていないか
仮眠中に防災センターから離れる際のPHS携帯・行き先告知を求めていないか
発報記録・電話受付記録・業務日報が現場ごとに保存されているか
⚠ 未対応の場合のリスク試算(ジャパンプロテクション事件実例)
未払賃金
付加金(同額)
請求額が約2倍
固定残業代が無効と判断された場合、請求額はさらに増加します。 付加金は裁判所の裁量で命じられるものであり(労基法第114条)、 上記事件では未払賃金と同額の669万円が付加金として命じられました。
06

まとめ

2件の判例が共通して示すメッセージは、 「名目ではなく実態で判断される」ということです。

1
「仮眠時間」と就業規則に書いても、対応義務の実態があれば労働時間と認定される
2
「複数名体制だから安心」ではなく、仮眠者を起こす運用があれば労働時間になる
3
「固定残業代がある」でも、最低賃金割れなら無効・全額が残業代の計算対象になる
4
未払賃金と同額の付加金が加算され、会社負担が最大2倍になるリスクがある

就業規則の整備・現場運用の確認・固定残業代の設計見直しは、 今すぐ着手できる対策です。不安な点があればお気軽にご相談ください。

【引用判例】①ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日・令和4年(ワ)31750号・労働経済判例速報2568号3頁) ②イオンディライトセキュリティ事件(千葉地判平成29年5月17日・平成27年(ワ)1447号・労働判例1161号5頁) 【最高裁参照】最判平成12年3月9日・民集54巻3号801頁、最判平成14年2月28日・民集56巻2号361頁

本コラムは情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。具体的な労務問題については専門家にご相談ください。
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