警備業の苦情処理記録|対象範囲・法定記載事項・保存期間を解説|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム

警備業の苦情処理記録
対象範囲・法定記載事項と管理のポイント

警備業法第20条の「依頼者等」には、契約先だけでなく周辺住民・通行者等も含まれます。
法定記載事項、匿名申出の扱い、保存期間と個人情報管理まで、2026年10月15日時点の公的資料で整理します。

警備業法施行規則第66条1項8号
依頼者・周辺住民・通行者等
立入検査対策
保存期間・個人情報管理
苦情処理記録は「苦情を受けた事実」だけを書く書類ではありません
警備業法施行規則第66条第1項第8号は、苦情の内容だけでなく、 原因究明の結果・苦情に対する弁明の内容・改善措置・処理担当者まで記録することを求めています。
警備業法上
苦情の受付から原因確認・回答・改善までを追跡できる法定備付書類として整備します。
実務上
後日、同様の苦情や紛争が生じた場合に、会社が当時どのように確認・対応したかを説明する資料にもなります。

一般に「苦情処理簿」と呼ばれる書類は、警備業法第45条・警備業法施行規則第66条第1項第8号に基づく法定備付書類です。法令上の記載事項を満たし、実際に受けた苦情と会社の対応経過を正確に確認できる状態にしておくことが重要です。

01

法的根拠と法定記載事項

📌 根拠条文 警備業法第20条:警備業者は、常に、その行う警備業務について、依頼者等からの苦情の適切な解決に努めなければならないとされています。

警備業法第45条・警備業法施行規則第66条第1項第8号: 営業所には、警備業務についての依頼者等からの苦情に関し、法定事項を記載した書類を備える必要があります。

施行規則第66条第2項: 第8号の書類について、一律の法定保存期間は定められていません。

第66条第1項第8号が求める記録事項は次のとおりです。法定事項と、記録を分かりやすくするための実務上の追加事項を区別して運用してください。

法定記載事項 実務上の記載ポイント
法定申出者の氏名・連絡先 取得できた氏名・連絡先を記載します。匿名・申告なしの場合に架空の情報を補うことはせず、「匿名」「氏名申告なし」「連絡先申告なし」等、取得できなかった事実が分かる形で残す運用が適切です。
法定苦情の内容 申出内容を事実に即して記載します。発生日・場所・関係者・受付方法等は条文上独立した必須項目ではありませんが、内容を特定するため実務上併記すると有効です。
法定原因究明の結果 調査した結果を記載します。聞き取り・日誌・映像等の確認方法まで記録することは条文上必須ではありませんが、結論の根拠が分かるよう残すと確認しやすくなります。
法定苦情に対する弁明の内容 申出者に対して行った説明・回答の内容を記載します。匿名等で回答できなかった場合は、その事情を事実どおり記録します。
法定改善措置 会社として講じた措置を記載します。調査の結果、改善措置を講じない場合でも、「措置なし」とだけせず、その判断理由が分かるよう残すと実務上有効です。
法定苦情処理担当者の氏名 当該苦情の処理を担当した者の氏名を記載します。社内の役職・所属等は法定必須ではありませんが、併記しておくと管理しやすくなります。
参照法令:警備業法第20条・第45条/警備業法施行規則第66条第1項第8号・第2項
02

苦情の対象範囲:「依頼者等」の正しい意味

警備業法第20条は苦情の申出者を「依頼者等」としており、契約上の依頼者だけに限定していません。

⚠️ 現行の警察庁解釈運用基準 警察庁の2024年6月27日付「警備業法等の解釈運用基準について(通達)」第19では、 「依頼者等」には、依頼者のほか、警備業務実施場所の周辺住民・通行者等が含まれると整理されています。 したがって、周辺住民や通行者から警備業務の実施について苦情を受けた場合も、法第20条の対象として適切に解決へ対応する必要があります。
例
近隣住民から「夜間の誘導時の笛・声がうるさい」と会社へ申出があった
例
通行者・ドライバーから「誘導方法が危険だった」と抗議を受けた
例
施設利用者から警備員の接遇について苦情があり、施設管理者を経由して会社へ連絡された
例
現場の警備員・責任者が周辺住民から直接、警備業務に関する苦情を受けた
⚠️ 第20条と第66条第1項第8号を分けない 施行規則第66条第1項第8号も「警備業務についての依頼者等からの苦情」を対象としています。 そのため、「契約先から来た苦情だけを苦情処理記録に記載する」という運用は適切ではありません。
参照法令・資料:警備業法第20条/警備業法施行規則第66条第1項第8号/警察庁 令和6年6月27日付 丙生企発第240号「警備業法等の解釈運用基準について(通達)」第19
03

法定事項と実務上の追加記録を分ける

元のページでは、発生日時・場所・関係警備員、調査プロセス、「誰が・いつまでに・何をするか」といった項目まで法定必須事項のように読める部分がありました。これらは記録の具体性を高めるためには有効ですが、施行規則第66条第1項第8号が直接列挙する法定事項とは区別します。

例:交通誘導に対する通行者からの苦情

❌ 内容が確認しにくい例
苦情の内容:
誘導が悪かった。
原因究明の結果:
警備員のミス。
弁明の内容:
謝罪した。
改善措置:
注意した。
✅ 実務上分かりやすい記録例
苦情の内容:
○月○日14時頃、○○現場付近の通行者から「歩行者誘導が分かりにくく危険だった」と電話申出。
原因究明の結果:
当日の配置者・警備日誌を確認し、誘導位置が歩行者から見えにくかったことを確認。
弁明の内容:
調査結果と、誘導位置を見直す旨を説明。
改善措置:
当該現場の立哨位置を変更し、配置者へ誘導方法を再確認した。
💡 事実と評価を分けて記録 「警備員が悪い」「言いがかりだった」など結論だけを記載するのではなく、 申出内容 → 確認した事実 → 会社の回答 → 措置の順に整理すると、後から経緯を確認しやすくなります。 防犯カメラ・日誌等を確認していないのに「確認済み」と記載するなど、実態と異なる記録は避けてください。
参照法令:警備業法施行規則第66条第1項第8号
04

「苦情」「要望」「匿名申出」の実務上の整理

1
現場で口頭で受け、その場で解決した苦情
受付方法が電話・書面・口頭のいずれであっても、警備業務についての依頼者等からの「苦情」である以上、受付方法だけを理由に記録対象から外すのは適切ではありません。 現場で受けた場合は、本社・営業所へ報告して法定記録へ反映できるルートを設けます。
2
要望・意見との境界
単なる質問や要望がすべて法令上の「苦情」になるわけではありません。 一方、警備業務への不満、是正要求、危険性の指摘等を含む場合は、名称が「要望」であっても内容から苦情として扱う必要があります。 判断に迷う場合は、社内相談記録等も活用し、受付内容を残しておくと安全です。
3
匿名で会社に寄せられた苦情
匿名の電話・メール・WEBフォーム等で会社が苦情を受けた場合、氏名・連絡先を取得できないことがあります。 その場合は架空の情報を補わず、「匿名」「氏名申告なし」「返信先なし」等、実際の受付状況を記録し、確認可能な範囲で原因究明・改善措置を行います。
4
SNS上の投稿を見つけただけの場合
会社に対する苦情の「申出」といえるかは、投稿の態様・宛先等によって異なります。 単に第三者のSNS投稿を発見しただけで、すべてを法定苦情処理記録へ転記しなければならないとまでは断定できません。 ただし、重大な安全上の指摘等であれば、事実確認・社内対応記録を残すことを検討します。
⚠️ 事実無根と判断した場合も受付事実は消さない 調査の結果、申出内容を確認できなかった場合でも、実際に苦情の申出を受けたのであれば、 「確認できなかった」という原因究明の結果や、申出者へ行った説明を事実どおり記録する運用が適切です。
05

保存期間と個人情報保護の取り扱い

保存期間:第66条第2項に一律の年数指定はない

⚠️ 「規定なし」=長期保存義務ではない 苦情処理記録は、警備業法施行規則第66条第2項に一律の法定保存期間が定められていません。 これは「何年でも保存しなければならない」という意味でも、「いつでも廃棄してよい」という意味でもありません。

過去記録については、苦情・事故・紛争への対応可能性、個人情報の保有必要性、社内文書保存規程等を踏まえて保存年限を設定します。 事故・訴訟等が継続している案件は、通常の廃棄時期が来ても個別に保存を継続する運用が必要です。

個人情報保護法との関係

苦情処理記録には申出者の氏名・連絡先等が含まれます。個人情報取扱事業者は、個人情報の利用目的をできる限り特定し、原則としてその目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱わないことが求められます。

💡 個人情報管理のポイント 利用目的:苦情受付・事実確認・回答・再発防止等、取得・利用する目的を整理します。

安全管理:個人データに該当する形で管理する場合は、漏えい・滅失・毀損を防ぐため必要かつ適切な安全管理措置が必要です。

保有期間:個人データについては、利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去するよう努める規定があります。警備業法側に一律の保存期間がないことだけを理由に、漫然と保有し続ける運用は避けます。

廃棄:廃棄する際は、復元・漏えいを防止できる方法で処理します。
参照法令:警備業法施行規則第66条第2項/個人情報保護法第17条(利用目的の特定)・第18条(利用目的による制限)・第22条(データ内容の正確性の確保等)・第23条(安全管理措置)
06

苦情処理記録の整備チェックリスト

📋 苦情処理記録 作成・管理チェックリスト
法定記載事項
申出者の氏名・連絡先を記録しているか。取得できない場合はその事実を明記しているか
苦情の内容が事実に即して記録されているか
原因究明の結果が記録されているか
苦情に対する弁明・説明の内容が記録されているか
改善措置が記録されているか
苦情処理担当者の氏名が記録されているか
対象範囲
契約上の依頼者だけでなく、周辺住民・通行者等からの警備業務に関する苦情も対象としているか
現場で直接受けた苦情を営業所へ報告するルートがあるか
「要望」という名称だけで機械的に対象外としていないか
匿名申出について、取得できない氏名・連絡先を作らず事実どおり記録しているか
保存・個人情報管理
苦情処理記録に一律の法定保存期間がないことを踏まえ、社内保存年限を設定しているか
事故・紛争等の継続案件は廃棄を停止できる運用になっているか
閲覧権限・保管場所・電子データのアクセス権限等を適切に設定しているか
利用する必要がなくなった個人データを漫然と保有し続けない運用になっているか
1
警備業法第20条は、依頼者等からの苦情について適切な解決に努めることを求めている
2
現行の警察庁解釈運用基準では、「依頼者等」に周辺住民・通行者等も含まれる
3
第66条第1項第8号の法定事項と、日時・場所・調査方法等の実務上の追加記録を区別する
4
第66条第2項に苦情処理記録の一律の保存期間は定められていない。社内保存年限と個別の保存延長ルールを設定する
5
個人情報の利用目的・安全管理・不要となった個人データの消去努力も踏まえて保存運用を設計する
【根拠法令・公的資料】警備業法第20条・第45条/警備業法施行規則第66条第1項第8号・第2項/警察庁 令和6年6月27日付 丙生企発第240号「警備業法等の解釈運用基準について(通達)」第19/個人情報の保護に関する法律第17条・第18条・第22条・第23条

本ページは2026年10月15日時点の公的情報を確認して作成しています。法令上の必須記載事項と実務上の推奨項目を区別して記載しています。匿名申出・要望等の個別案件では、申出の内容・態様に応じて判断してください。本記事は情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。
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