重要:2026年10月1日施行済・全事業主に措置義務
改正労働施策総合推進法によるカスタマーハラスメント防止措置は、2026年10月1日に施行されました。
具体的な措置内容は、令和8年厚生労働省告示第51号のカスタマーハラスメント防止指針で示されています。
法律・指針上の「職場におけるカスタマーハラスメント」は、次の3つの要素をすべて満たすものです。
- 顧客等の言動であること
顧客、取引の相手方、施設利用者その他の事業に関係を有する者による言動であること。
- 社会通念上許容される範囲を超えていること
警備員が従事する業務の性質その他の事情も踏まえて、客観的に判断します。
- 労働者の就業環境が害されること
身体的・精神的苦痛等によって、就業する上で看過できない程度の支障が生じること。
電話・SNS等で行われる言動も対象になり得ます
厚生労働省は、対面だけでなく電話やSNS等のインターネット上で行われる言動も、
要件を満たせば職場におけるカスタマーハラスメントに含まれると案内しています。
警備員個人の氏名・顔写真等をSNSへ投稿して攻撃する事案も、内容と影響を踏まえて判断します。
正当な苦情・要望とは区別します
誘導方法への異議や施設対応への不満があっただけで、直ちにカスハラになるわけではありません。
要求内容、言動の手段・態様、継続時間、回数、現場の状況などを踏まえて判断します。
「苦情を言う人=カスハラ」と扱う運用は適切ではありません。
警備業では、発注者の担当者、施設利用者、工事関係者、通行者など、
警備業務との関係に応じて幅広い者の言動が問題となり得ます。
個々の警備員だけに判断を委ねず、次のような事案について報告・引継ぎ基準を決めておくことが重要です。
- 交通誘導や通行規制に対する執拗な抗議、威圧的な言動
- 施設利用者による長時間の拘束、居座り、不退去
- 土下座、過度な謝罪、私的な個人情報の開示等の要求
- 無断撮影、SNS投稿を示唆した威圧、個人攻撃
- 暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動
労働施策総合推進法第33条とカスハラ防止指針は、
単に「カスハラ禁止」と掲げるだけでなく、実際に機能する雇用管理上の措置を求めています。
実務では次の5つに分けて確認すると整理しやすくなります。
REQUIRED 01
方針・対処内容の明確化と周知・啓発
カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にします。
あわせて、カスハラの内容、報告先、現場での対処内容等を労働者へ周知・啓発します。
REQUIRED 02
相談体制の整備
相談窓口または相談担当者をあらかじめ定め、労働者へ周知します。
実際にカスハラが発生した場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合にも広く相談できる体制が必要です。
REQUIRED 03
事後の迅速・適切な対応
相談申出があった場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、
被害者への配慮、必要な行為者対応、再発防止等を行います。
必要に応じて録音・録画等の客観資料も確認しますが、個人情報を適切に取り扱う必要があります。
REQUIRED 04
特に悪質な事案への抑止措置
特に悪質な事案への対処方針をあらかじめ定め、周知するとともに、その対処を実行できる体制を整えます。
指針では、警察通報、警告文、法令の制限内でのサービス提供拒否、施設への出入り禁止等が例示されています。
REQUIRED 05
プライバシー保護・不利益取扱いの禁止
相談者・行為者等のプライバシーを保護する措置を講じ、労働者へ周知します。
また、労働者が相談したこと、または会社の相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他の不利益取扱いは法律上禁止されています。
発注者等から事実確認への協力を求められる場合にも注意
労働施策総合推進法第33条第3項により、
他の事業主からカスハラ防止措置の実施に必要な協力を求められた場合、
事業主はこれに応ずるよう努めなければなりません。
警備業では、警備会社の従業員と発注者・施設管理会社等の従業員の間で問題が生じる場面があります。
指針は、協力要請を受けたことを理由として相手方事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いをすることは望ましくないとも示しています。
警備業法上の「苦情処理記録」とは目的を分けて管理
カスハラ事案の中に、警備業務について依頼者、警備業務実施場所の周辺住民、通行者等から実際の苦情申出があった場合は、
カスハラ対応とは別に、警備業法第20条・警備業法施行規則第66条第1項第8号の
苦情の申出に対する処理経過に関する記録への記録要否も確認します。
一方、警備員への暴言・威嚇等があっただけで、警備業務についての苦情申出がない事案まで当然に同記録の対象になるとは限りません。
「就業規則に条文を追加すれば完了」ではありません
法律が求めるのは雇用管理上の措置です。
就業規則・ハラスメント規程への明文化は実装方法の一つですが、
相談窓口、現場の引継ぎ基準、事後対応、悪質事案への体制が実際に機能している必要があります。
行政対応:勧告・公表・報告請求
労働施策総合推進法第42条により、厚生労働大臣は助言・指導・勧告を行うことができ、
第33条第1項・第2項に違反している事業主が勧告に従わない場合は、その旨を公表できるとされています。
また、第45条第1項に基づく報告を求められることがあり、
同項の報告をせず、または虚偽の報告をした場合は、第51条により20万円以下の過料の対象となります。
措置義務違反そのものに一律の刑事罰が直ちに科される、という仕組みではありません。
すべてを就業規則へ細かく書き込むことが法定要件ではありません。
警備会社では、変更頻度や現場ごとの権限差を踏まえて、
基本方針は規程、現場判断はマニュアル、個別現場の連絡先・権限は運用資料へ分ける方法が実務的です。
RULES
就業規則・ハラスメント規程
- 会社の基本方針
- 相談・報告ルールの基本
- プライバシー保護
- 相談等を理由とする不利益取扱いの禁止
- 必要に応じ服務規律・懲戒との関係
MANUAL
現場対応マニュアル
- 上長・管制へのエスカレーション基準
- 1人で対応を継続しない基準
- 安全確保・退避・応援要請
- 録音・録画の取扱い
- 警察通報・発注者連携の基準
OPERATION
現場別の運用資料
- 相談担当者・代替担当者
- 発注者・施設管理者の緊急連絡先
- 退去要請等の最終判断者
- 事案記録の保存・共有方法
- 苦情処理記録との切り分け
警備業では「発注者との役割分担」が特に重要
警備員が施設管理権限を持たない現場では、
退去要請、入館禁止、サービス提供の打切り等を警備会社だけで決められない場合があります。
警備会社、発注者、施設管理者の誰が判断し、警備員はどの段階で引き継ぐのかを現場ごとに整理してください。
就業規則・ハラスメント規程の条文例
第○条(カスタマーハラスメントへの対応)
1.会社は、顧客、取引の相手方、施設利用者その他会社の事業に関係を有する者からの言動であって、
従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、
従業員の就業環境を害するもの(以下「カスタマーハラスメント」という。)に対し、
毅然とした態度で対応し、従業員を保護する。
2.従業員は、カスタマーハラスメントに該当するおそれのある事象に直面したときは、
会社が定める対応手順に従い、速やかに所属長、管制担当者その他会社が指定する者へ報告するものとする。
3.会社は、相談体制を整備し、事案の内容に応じて事実確認、被害を受けた従業員への配慮、
行為者への対応、再発防止その他必要な措置を講ずる。
特に悪質な事案については、現場の権限及び契約関係を踏まえ、発注者等と連携し、警察への通報その他必要な対応を行う。
4.会社は、相談者、行為者その他関係者のプライバシーを保護する。
また、従業員がカスタマーハラスメントに関する相談を行ったこと、
又は会社による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、
解雇その他不利益な取扱いを行わない。
5.会社は、他の事業主からカスタマーハラスメント防止措置の実施に必要な協力を求められた場合、
法令及び個人情報の取扱いに配慮しつつ、必要な事実確認その他の協力に応ずるよう努める。
条文例だけで法定措置を満たすわけではありません
交通誘導、施設警備、イベント警備では、現場責任者の権限、発注者との契約関係、管制体制が異なります。
自社の相談窓口、報告経路、警察通報基準、発注者との役割分担に合わせて具体的な運用を整備してください。
常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更する場合は、
過半数労働組合または過半数代表者からの意見聴取、所轄労働基準監督署への届出、労働者への周知が必要です
(労働基準法第89条・第90条・第106条)。
常時10人未満で就業規則の作成・届出義務がない事業場でも、カスタマーハラスメント防止措置義務は対象です。
2026年10月1日から既に措置義務が施行されています。
現在は「施行前に準備する段階」ではなく、
体制が実際に機能しているかを確認し、事案を踏まえて改善する段階です。
平時
方針・相談窓口・現場の権限を周知
カスハラの定義、相談先、管制への連絡方法、悪質事案への基本方針、不利益取扱い禁止等を周知します。
現場ごとに発注者側の緊急連絡先と最終判断者も確認しておきます。
発生時
まず警備員の安全確保とエスカレーション
暴行・傷害・脅迫等のおそれがある場合は、安全確保、応援要請、発注者への連絡、必要に応じ警察通報等を優先します。
現場警備員に長時間の単独対応を続けさせないルールを運用します。
相談・申出後
事実確認・被害者への配慮・行為者対応
相談者の心身の状況にも配慮しながら、関係者、録音・録画、日報等から事実関係を確認します。
事実が確認できた場合は、被害者への配慮、必要な行為者対応、再発防止を行います。
事実が確認できなかった場合でも、必要に応じて方針の再周知等を検討します。
他社連携
発注者等からの協力要請に対応
発注者、元請、施設管理会社等から、その会社のカスハラ防止措置に必要な事実確認等への協力を求められた場合は、
法33条3項に基づき協力に応ずるよう努めます。自社から相手方事業主へ協力を求める場合の連絡経路も決めておきます。
定期見直し
事案記録を踏まえてマニュアル・教育を更新
必要に応じて事案の内容・対応経緯を記録し、個人情報に配慮しながら再発防止へ活用します。
現場責任者・管制担当者向けの事例研修やロールプレイも有効です。
正当な申入れをカスハラ扱いしないための教育も重要
厚生労働省指針は、消費者の心理、障害特性、認知症の症状等への理解を深めることなども望ましい取組として示しています。
警備員を守ることと、正当な苦情・申入れへ適切に対応することは両立させる必要があります。
新任教育・現任教育との扱いを混同しない
カスハラ対応研修は、法33条・指針に基づく周知・啓発や実務研修として有効です。
ただし、カスハラ研修そのものが警備業法上の新任教育・現任教育の独立した法定教育事項として追加されたわけではありません。
同日に行う場合も、警備業法上の法定教育科目・時間を別に満たしていることを確認してください。
「必須」は法第33条・防止指針上の措置に対応する項目、
「推奨」は警備現場で実効性を高めるための項目です。
就業規則変更の手続など、一定の場合にのみ必要となる項目は本文中に条件を記載しています。
カスハラ対策・実務チェック
A. 方針・相談体制
必須カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針を明確にしている
必須カスハラの内容と対処内容を労働者へ周知・啓発している
必須相談窓口・相談担当者を定め、該当するか微妙な場合も相談できるようにしている
必須相談者・行為者等のプライバシー保護措置を定め、周知している
必須相談したこと又は相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする不利益取扱いを禁止している
B. 事案発生時の対応
必須事実関係を迅速・正確に確認する手順がある
必須被害を受けた警備員への配慮措置を行う手順がある
必須必要な行為者対応と再発防止を実施する仕組みがある
必須特に悪質な事案への対処方針を定め、その対応を実行できる体制がある
C. 警備現場の運用
推奨警備員が1人で対応を抱え込まず、上長・管制へ引き継ぐ基準がある
推奨暴行・傷害・脅迫等のおそれがある場合の安全確保・警察通報基準を定めている
推奨発注者・施設管理者の緊急連絡先と最終判断者が明確になっている
推奨録音・録画、事案記録、個人情報の保存・共有方法を決めている
推奨実際の苦情申出を伴う場合に、警備業法上の苦情処理記録への記載要否を確認する運用がある
D. 発注者・他社との連携
努力義務他の事業主から必要な事実確認等への協力を求められた場合に対応できる社内窓口がある
推奨自社から発注者等へ協力を求める場合の連絡経路を定めている
推奨協力要請を理由に取引先へ不利益な取扱いをしない方針を共有している
E. 規程・周知・教育
推奨就業規則・ハラスメント規程と現場マニュアルの内容が矛盾していない
条件付常時10人以上の事業場で就業規則を変更した場合、意見聴取・届出・周知を行っている
推奨管制・現場責任者が事例ベースでエスカレーション手順を確認している
推奨正当な苦情との切り分けや、消費者心理・障害特性等への理解も含めて周知・研修している
主な根拠・確認資料:
労働施策総合推進法第33条・第34条・第42条・第45条・第51条/
「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
(令和8年厚生労働省告示第51号・2026年10月1日適用)/
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」/
労働基準法第89条・第90条・第106条/
警備業法第20条・警備業法施行規則第66条第1項第8号/
警察庁「警備業法等の解釈運用基準について」(令和6年6月27日・丙生企発第240号)。
制度確認日:2026年10月15日。
警備業特化の就業規則・労務管理
就業規則と現場対応を、一度整理しませんか
カスハラ条項だけでなく、相談窓口、管制への報告ルート、警察通報・発注者連携まで、警備会社の実際の運用に合わせて確認します。
初回30分無料/全国オンライン対応