警備業の同一労働同一賃金|2026年10月改正ガイドライン対応|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム Series.11

「正社員だから手当あり」では決まらない
― 警備業の同一労働同一賃金を正しく整理する

均衡待遇・均等待遇の判断基準と、2026年10月改正ガイドラインを踏まえ、
警備会社が点検すべき手当・賞与・退職手当・教育訓練等を整理します。

2026年10月改正対応
パート有期法第8条・9条
均衡待遇・均等待遇
賃金規程の整備

同一労働同一賃金は「正社員と非正規をすべて同額にする」制度ではありません。一方で、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇差は、待遇ごとの性質・目的と、職務内容・配置変更範囲その他の事情に照らして点検する必要があります。「説明できない=直ちに違法」という制度ではありませんが、説明義務は別に課されており、説明内容と実際の制度設計が整合していることが重要です。

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適用対象と法律の基本:第8条・第9条

パートタイム・有期雇用労働法が直接対象とするのは、 短時間労働者・有期雇用労働者と、同じ事業主に雇用される「通常の労働者」との待遇差です。 警備会社で多い「フルタイムだが有期契約」の警備員も有期雇用労働者として対象になります。

⚠️ 「非正規社員」すべてを同じ法律で処理しない 派遣警備員については、労働者派遣法の均等・均衡方式または労使協定方式による別の仕組みがあります。 また、無期雇用フルタイム労働者同士の待遇差は、原則としてパートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条の直接の対象ではありません。

ただし、2026年10月1日適用の改正ガイドラインでは、短時間・有期雇用労働者に該当しない無期雇用フルタイム労働者等についても、 ガイドラインの趣旨を考慮することが明確化されています。
①
Article 8 / 均衡待遇
不合理と認められる待遇差の禁止
基本給、賞与、手当その他の待遇ごとに、 ①業務の内容・責任の程度(「職務の内容」)、 ②職務の内容・配置の変更の範囲、 ③その他の事情のうち、 その待遇の性質・目的に照らして適切なものを考慮し、 不合理と認められる相違を設けてはなりません。
②
Article 9 / 均等待遇
通常の労働者と同視すべき者への差別的取扱いの禁止
通常の労働者と職務内容が同一で、 雇用関係が終了するまでの全期間について職務内容・配置の変更範囲も同一と見込まれる 短時間・有期雇用労働者については、 短時間・有期雇用労働者であることを理由として待遇ごとに差別的取扱いをしてはなりません。
📌 「説明できる差」なら自動的に適法、ではない 第8条の判断は、会社が何らかの理由を説明できるかどうかだけで決まるものではありません。 個々の待遇の性質・目的に照らし、その理由として持ち出している職務・配置変更範囲等の違いが実際に適切な事情か を検討します。 抽象的に「正社員には将来の役割期待がある」と述べるだけでは足りません。
📌 2026年10月1日からガイドライン等が改正 2026年10月1日から、同一労働同一賃金ガイドラインの記載が拡充され、 賞与、退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、福利厚生施設、病気休職・休暇、夏季冬季休暇、褒賞 などについて考え方が追加・充実されました。 警備業では特に「無事故手当」が明示された点が重要です。
参照法令・公的資料: パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条/ 2026年10月1日適用「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年厚生労働省告示第430号・令和8年改正)
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2026年改正を踏まえた待遇ごとの確認ポイント

待遇差の適法性は、項目名だけで一律に「高リスク・低リスク」と決めるものではありません。 以下は、2026年10月1日適用の改正ガイドラインを踏まえた警備会社での確認ポイントです。

待遇項目 確認の軸 警備会社での実務ポイント
通勤手当 同一基準 ガイドラインでは、短時間・有期雇用労働者にも通常の労働者と同一の通勤手当を支給する考え方が示されています。 実費・距離等による違いがある場合は、雇用形態ではなく同じ支給基準を適用します。
時間外・休日・深夜手当 同一割増率等 同一の時間外・休日・深夜労働を行った場合、同一の割増率等で支給します。 法定割増率はそもそも労基法上、雇用形態を問わず適用されます。
無事故手当 2026年追加 改正ガイドラインで新たに明示。 業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の無事故手当を支給する考え方が示されています。 車両誘導・巡回車運転等がある警備会社では要確認です。
現場・危険手当 目的で判断 「危険・負担の大きい業務への対価」という目的なら、 実際の危険度・業務内容・従事時間等と待遇差が対応しているかを確認します。 同じ現場だから必ず同額、異なる現場だから必ず差を付けてよい、とは一律に決まりません。
資格手当(指教責・検定等) 資格の活用実態 資格保有そのものへの手当なのか、選任・配置・職責への対価なのかを明確にします。 同じ資格を持っているだけで常に同額とは限らず、実際の資格活用・責任の違いとの対応を確認します。
賞与 2026年充実 「非正規には賞与ゼロなら直ちに違法」ではありません。 ただし、労務の対価の後払い、功労報償、生活費補助、意欲向上等の性質・目的が短時間・有期雇用労働者にも妥当するのに、 職務内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合は不合理となり得ることが明確化されました。
退職手当 2026年追加 労務の対価の後払い、功労報償等の性質・目的が短時間・有期雇用労働者にも妥当する場合、 職務内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しないと不合理となり得ることが新たに明示されました。 「長期勤続だから必ず正社員と同じ退職金」という単純なルールではありません。
家族手当 2026年追加 労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、 通常の労働者と同一の家族手当を支給する考え方が追加されました。
住宅手当 2026年追加 転居を伴う配置変更の有無に応じて支給する住宅手当なら、 通常の労働者と同一の転居を伴う配置変更がある短時間・有期雇用労働者には同一の支給が必要という考え方が追加されています。
夏季・冬季休暇 2026年追加 改正ガイドラインでは、短時間・有期雇用労働者にも通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与する考え方が明示されています。 正社員だけに夏季休暇を付与している警備会社は点検が必要です。
教育訓練 法11条 通常の労働者と職務内容が同一で、その職務遂行に必要な能力を付与する教育訓練については、 既に必要な能力を有する場合を除き、短時間・有期雇用労働者にも実施する必要があります。 警備業法上の新任・現任教育は、同一労働同一賃金とは別に警備業法上の義務・免除要件を確認します。
⚠️ 最高裁判例の結論だけを横展開しない 2020年の最高裁判決では、賞与について大阪医科薬科大学事件、 退職金についてメトロコマース事件で、その事案における待遇差が不合理とは認められませんでした。 一方、日本郵便事件では年末年始勤務手当、病気休暇、扶養手当、夏期冬期休暇等について不合理性が認められた項目があります。

2026年改正ガイドラインは、これらの裁判例等を踏まえて記載を追加・充実しています。 「最高裁で賞与ゼロ・退職金ゼロが認められたから自社も問題ない」という使い方は適切ではありません。
参照資料: 厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」(2026年10月1日適用)/ 大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件(最高裁令和2年10月13日)/ 日本郵便事件(最高裁令和2年10月15日)
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待遇差をどう判断するか・説明義務への対応

実務では「正社員と仕事内容が違うか」だけを見るのではなく、 待遇ごとに、その待遇の性質・目的と結び付く違いがあるかを確認します。

✅ 差の理由として考慮し得る例
  • 役職手当:実際に担う役職・責任の違い
  • 住宅手当:その手当が転居を伴う配置変更への負担補助を目的とする場合の、実際の転居可能性の違い
  • 資格・職務手当:資格を実際に使用する職務、選任、責任範囲の違い
  • 基本給:能力・経験・成果・勤続等を基準とする場合の、実際の相違に応じた差
❌ そのままでは説明として弱い例
  • 「正社員だから」「パートだから」という雇用区分だけ
  • 実態を確認せず「将来の役割期待が違う」と抽象的に説明する
  • 通勤手当や無事故手当など、その待遇の目的と関係しない「転勤の有無」を持ち出す
  • 規程上は理由が書いてあるが、実際の職務・配置・支給運用と一致していない
🚨 説明義務違反と第8条違反は別問題 短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合、 事業主は通常の労働者との待遇差の内容・理由や、 法第6条から第13条までの措置を決定する際に考慮した事項を説明する必要があります。

ただし、十分に説明できなかったから法律上当然に第8条の「不合理な待遇差」とみなされるわけではありません。 第8条の不合理性と、第14条の説明義務はそれぞれ別に判断されます。 逆に、説明できたから第8条違反にならないというものでもありません。
📌 2026年10月1日から雇入れ時の明示事項も追加 2026年10月1日以降、短時間・有期雇用労働者を雇い入れる際の明示事項に、 「通常の労働者との待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨」 が追加されています。

また、待遇差の説明を求められた場合の説明方法について、 2026年改正の雇用管理指針では、 資料を活用して口頭で説明する方法または 必要事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付する等の方法 が示されています。
⚠️ 説明を求めたことを理由とする不利益取扱いは禁止 待遇差について説明を求めた短時間・有期雇用労働者に対し、 そのことを理由として解雇、雇止め、配置上の不利益等を行うことは禁止されています。
参照法令・公的資料: パートタイム・有期雇用労働法第14条/ 2026年改正パートタイム・有期雇用労働法施行規則・雇用管理指針/ 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法 よくあるご質問」
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今すぐ確認すべき実務チェックリスト

📋 同一労働同一賃金・2026年改正対応チェックリスト
対象者・比較対象
短時間労働者だけでなく、フルタイム有期契約の警備員も対象として確認しているか
派遣労働者を同じルールで処理せず、派遣法上の均等・均衡方式/労使協定方式を確認しているか
比較する通常の労働者と、職務内容・配置変更範囲を具体的に整理しているか
賃金・手当・休暇
通勤手当の支給基準を雇用形態だけで変えていないか
無事故手当がある場合、業務内容が同一の短時間・有期雇用労働者を除外していないか
資格手当について、資格保有・資格活用・選任・責任のどれに対する手当か整理できているか
賞与・退職手当について、2026年改正ガイドラインを踏まえて性質・目的と職務内容等の違いを再点検したか
家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇について2026年10月改正内容を反映したか
法定外教育訓練について「正社員のみ」とする場合、法11条・第8条との関係を確認したか
説明義務・労働条件通知
待遇差の内容と理由を、待遇ごとの性質・目的に沿って具体的に説明できるか
「正社員だから」「将来期待が違うから」だけの抽象的説明になっていないか
2026年10月1日以降の労働条件通知書に「待遇差の説明を求めることができる旨」を追加したか
説明依頼への対応方法を、口頭+資料または分かりやすい説明資料の交付等として社内で整備したか
説明を求めたことを理由とする不利益取扱いをしないことを担当者に周知しているか
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まとめ

警備業の同一労働同一賃金対応では、 「正社員と非正規で違うか」だけを見るのではなく、 個々の待遇の性質・目的と、実際の職務内容・配置変更範囲等との関係を整理することが中心です。

1
パート有期法第8条は「説明できる差なら適法」という規定ではなく、待遇ごとの性質・目的に照らして不合理性を判断する
2
2026年10月1日改正で、賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇等の考え方が追加・充実した
3
警備業では、無事故手当、資格手当、現場手当、法定外教育訓練などを「支給目的」と実際の職務に照らして確認する
4
第14条の説明義務違反と、第8条の不合理な待遇差は別に判断される。説明できないだけで自動的に第8条違反となるわけではない
5
2026年10月1日から、雇入れ時に「待遇差の内容・理由等について説明を求めることができる旨」の明示も必要
📌 規程に理由を書くだけでは完了しない 賃金規程に「正社員は転勤の可能性があるため」と書けば足りるわけではありません。 実際に転勤・配置変更の範囲が異なるか、その違いが当該手当・待遇の性質や目的と関係するかまで確認します。 規程、職務分掌、雇用契約、実際の運用が一致していることが重要です。
【参照法令・公的資料】短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条・第9条・第11条・第14条/2026年10月1日施行の改正施行規則・雇用管理指針/2026年10月1日適用「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年厚生労働省告示第430号・令和8年改正)/厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
【参照裁判例】大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件(最高裁令和2年10月13日)/日本郵便事件(最高裁令和2年10月15日)

本ページは2026年10月15日時点の法令・2026年10月1日適用の改正ガイドラインを確認して作成しています。待遇差の不合理性は、待遇の性質・目的、職務内容、職務内容・配置の変更範囲その他の事情により個別に判断されます。本記事は情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。
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