約
1,362万円
ジャパンプロテクション事件(令和6年)
なぜこうなるのか
割増賃金等+付加金で
約1,362万円の支払命令
ジャパンプロテクション事件では、693万1,129円と、付加金669万110円の支払いが命じられ、合計は1,362万1,239円となりました(各遅延損害金は別)。
ただし、この金額は仮眠時間だけが原因ではなく、1か月単位の変形労働時間制の無効・固定残業代の無効も影響しています。
「夜間の仮眠時間は休憩扱いにしているから、残業代は発生しない。」
この認識だけで労働時間から除外することはできません。
本稿では公刊裁判例をもとに、警備会社が確認すべき実務ポイントを整理します。
仮眠時間を法定の「休憩」として労働時間から除外するには、
単に就業規則・勤務表で「仮眠」「休憩」と表示するだけでは足りません。
労働基準法第34条の休憩ルールと、判例上の労働からの解放の判断を分けて確認します。
労働基準法第34条の基本ルール
①
休憩時間の長さ
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上。
②
労働時間の途中に付与
始業前や終業後にまとめて与えることで法定休憩に代えることはできません。
③
一斉付与が原則
一斉付与の例外業種に「警備業」が当然に含まれるわけではありません。
警備会社で交替休憩とする場合は、原則として労基法34条2項ただし書の労使協定を確認します。
④
自由利用の原則
休憩中も電話・警報・来訪者等へ即時対応するよう命じられている場合は、真正な休憩といえない可能性があります。
🚨 「自由利用」と「労働時間性」は実態で判断
休憩時間中であっても、使用者の指示があれば直ちに業務へ従事することを求められ、
労働から離れることが保障されていない手待ち時間は労働時間に当たります。
仮眠室で横になれる、実際の呼出件数が少ない、といった事情だけで自動的に休憩になるわけではありません。
⚠️ 元ページの「警備業は一斉付与の適用除外」は修正
労働基準法施行規則第31条が一斉付与の例外として列挙するのは、
運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署です。
警備業それ自体は列挙されていません。
警備員へ交替で休憩を与える場合には、事業場の業種区分と労使協定の有無を確認してください。
根拠法令・公的資料:
労働基準法第34条・第40条/労働基準法施行規則第15条・第31条/
厚生労働省「休憩時間は法律で決まっていますか」「労働条件・職場環境に関するルール」
仮眠・待機などの不活動時間が労働時間かどうかは、
労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたと客観的に評価できるかで判断します。
最高裁判例から確認する判断枠組み
A
労働基準法上の労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」
三菱重工長崎造船所事件・最高裁平成12年3月9日判決。
B
実作業をしていないことだけでは指揮命令下から離脱したとはいえない
不活動時間でも、労働から離れることが保障されているかを確認します。
C
不活動仮眠時間に労働契約上の役務提供が義務付けられていれば、原則として労働時間方向
大星ビル管理事件・最高裁平成14年2月28日判決。
⚠️ 最高裁判例名の入れ違いを修正
平成12年3月9日・民集54巻3号801頁は「三菱重工長崎造船所事件」です。
平成14年2月28日・民集56巻2号361頁は「大星ビル管理事件」です。
元ページではこの2件の事件名と判決日が逆に記載されていたため、修正しています。
📌 「対応頻度」だけで決めない
実際の発報や呼出回数は重要な事情ですが、
それだけで結論が決まるわけではありません。
手順書・勤務命令・労働契約上の対応義務、交代要員の有無、場所的拘束、
実作業の必要が生じる可能性などを総合的に確認します。
参照判例:
三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日・民集54巻3号801頁)/
大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日・民集56巻2号361頁)
警備業の仮眠時間については、勤務体制や対応義務によって結論が分かれます。
とくにジャパンプロテクション事件では、仮眠時間だけでなく
1か月単位の変形労働時間制と固定残業代も争われています。
警備業務に従事していた労働者が、不活動仮眠時間の労働時間性、
1か月単位の変形労働時間制、調整手当等の固定残業代としての有効性などを争い、
割増賃金等を請求した事案です。
非労働時間
令和2年3月の2名体制:
機械警備の契約数が3社にとどまり、発報がほとんどない状況で、
1名が仮眠中でも他の1名が業務を処理できたことなどから、
不活動仮眠時間は労働時間に当たらないと判断されました。
労働時間
令和2年4月以降の1名体制:
本社ビルで電話対応、上下番・巡回等の報告受領、データ入力、
欠勤連絡時の警備体制補充に関する連絡等を1人で担う勤務となり、
不活動仮眠時間について労働からの解放が保障されていないとして労働時間性が認められました。
変形制
1か月単位の変形労働時間制も無効:
就業規則に、各勤務の始業・終業時刻、各勤務の組合せの考え方、
勤務割表の作成手続・周知方法等が定められていないとして、
労基法32条の2第1項に反し、原告には適用されないと判断されました。
固定残業代
調整手当の固定残業代としての効力も否定:
基礎賃金とされた基本給・役職手当等を時間換算すると当時の東京都最低賃金を下回ること、
賃金の推移などから調整手当には通常の労働時間の賃金部分も含まれると認められ、
その部分と固定残業代部分を判別できないこと等が理由とされました。
⚖️
割増賃金等 693万1,129円 + 付加金 669万110円
= 合計1,362万1,239円 の支払命令(各遅延損害金は別)
ショッピングセンターの警備員が、夜間の仮眠・休憩時間等について
労働時間に当たるとして割増賃金等を求めた事案です。
公刊解説ではP店(1名体制)・T店(3名体制)について判断が示されています。
労働時間
P店(1名体制):
発報時に即応することが求められ、防災センターを離れることも許されず、
実際に8か月間で少なくとも4回の緊急対応があったことなどから、
仮眠・休憩時間とも労働時間と判断されました。
労働時間
T店(3名体制):
交代で仮眠できる体制でも、手順書・手帳上、発報や緊急事案の際に
仮眠者へ対応を求める運用があり、外出時にはPHS携帯・行き先連絡を求められ、
実際の対応実績もあったことから、仮眠・休憩時間の労働時間性が認められました。
⚠️ 「1名なら労働時間、複数名なら休憩」というルールではありません
ジャパンプロテクション事件では2名体制の一部期間について労働時間性が否定されましたが、
イオンディライトセキュリティ事件では3名体制でも労働時間性が認められました。
人数そのものではなく、仮眠者に役務提供義務が残っているかが重要です。
裁判例から読み取れる事情を、実務上の確認項目として整理します。
どれか1つの事情だけで結論が決まる表ではありません。
| 判断要素 |
🔴 労働時間方向の事情 |
🟢 非労働時間方向の事情 |
| 仮眠中の役務義務 |
発報・電話・来訪者・巡回等への対応を求められる |
他の勤務者が対応を全面的に担い、仮眠者に対応義務がない |
| 勤務体制 |
仮眠者以外に対応できる者がいない、又は複数名でも仮眠者を起こす運用 |
交代要員が実際に業務を引き受け、仮眠者を呼び戻さない運用 |
| 場所・行動の拘束 |
防災センター等から離れられず、PHS等で常時連絡可能な状態を要求 |
業務対応から離れ、自由利用できる実態がある |
| 実作業の必要性 |
実際の呼出実績がある、又は契約上・実態上対応の必要性が高い |
実作業の必要が生じることがほとんどなく、役務提供義務も実質的にない |
| 規程・マニュアル |
仮眠者にも「緊急対応」「無人にしない」等の役務義務を課す内容 |
仮眠者を業務から解放することが明確で、実運用も一致 |
📌 固定残業代は「最低賃金を超えていれば有効」ではない
固定残業代の有効性は、最低賃金だけで判断するものではありません。
通常の労働時間の賃金部分と時間外労働等の対価部分を区別できるか、
当該手当が時間外労働等の対価として支払われていると評価できるか等を確認します。
ジャパンプロテクション事件では、会社が基礎賃金と主張した基本給・役職手当等の時間換算額が最低賃金を下回ることや、
基本給が長期間ほとんど増えず調整手当が増額していた経過などから、
調整手当には通常の労働時間の賃金部分も含まれると認定され、
通常賃金部分と固定残業代部分を判別できないとして固定残業代としての効力が否定されました。
💡 最低賃金の確認も別途必要
最低賃金との比較では、時間外・休日・深夜労働に対して支払われる賃金は原則として比較対象から除外します。
「固定残業代込みの総支給額が最低賃金を超えているから問題ない」とは判断できません。
参照資料:
ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)/
最低賃金法第4条/厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
📋 仮眠・変形労働時間制・固定残業代 チェックリスト
A. 仮眠・休憩の実態
仮眠中に電話・警報・来訪者・巡回等へ対応する義務が残っていないか
交代要員がいる場合、実際に仮眠者を起こさず業務を引き受ける運用になっているか
外出、着替え、PHS携帯、行き先連絡等の制約を含め、自由利用の実態を確認しているか
発報・電話・緊急対応等のログを保存し、実作業の必要性・頻度を確認できるか
6時間超45分、8時間超1時間以上の真正な休憩を労働時間の途中に確保しているか
警備業だから一斉休憩不要と誤解せず、交替休憩の場合の労使協定等を確認しているか
B. 変形労働時間制
1か月単位変形について、就業規則等に勤務区分の始終業時刻が定められているか
各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続・周知方法が規定されているか
変形期間開始前までに各日の勤務を具体的に特定しているか
「月の総枠以内」という理由だけで日・週の時間外を見落としていないか
C. 固定残業代・最低賃金
固定残業代が何時間分・何の割増賃金の対価なのかを明確にしているか
通常の労働時間の賃金部分と固定残業代部分を判別できる賃金設計になっているか
固定残業代を除外して最低賃金との比較を行っているか
固定残業代の対象時間を超えた場合、差額の割増賃金を追加支給しているか
⚠ ジャパンプロテクション事件の支払命令
各遅延損害金は別途。原告の請求額は割増賃金1,055万5,272円等でしたが、
裁判所が命じた金額は上記です。
また、この事件の支払額は「仮眠時間を労働時間と認定したこと」だけから生じたものではなく、
変形労働時間制と固定残業代の効力が否定されたことも含めた結果です。
付加金は労基法114条に基づき裁判所が命じることができるもので、常に未払額と同額が自動加算されるわけではありません。
警備員の仮眠時間は、名称や勤務人数だけではなく、
労働契約・規程・現場運用を通じて労働から解放されていたかで判断されます。
1
就業規則で「仮眠」「休憩」と定めても、役務提供義務が残っていれば労働時間となる可能性がある
2
複数名体制でも仮眠者を起こして対応させる運用なら労働時間方向。逆に複数名体制で実際に解放されていれば非労働時間となる場合がある
3
ジャパンプロテクション事件の約1,362万円の支払命令は、仮眠時間だけでなく、変形労働時間制・固定残業代の無効も影響した事例
4
固定残業代は「最低賃金以上なら有効」ではなく、通常賃金との判別や時間外労働等の対価性を含めて確認する
5
付加金は裁判所が命じることができる制度であり、未払額と同額が機械的に必ず加算されるものではない
24時間勤務を運用している警備会社では、
仮眠だけを単独で点検するのではなく、
休憩・勤務体制・変形労働時間制・賃金規程・固定残業代を一体で確認することが重要です。
【参照法令・公的資料】労働基準法第32条・第32条の2・第34条・第37条・第40条・第114条/労働基準法施行規則第15条・第31条/最低賃金法第4条/厚生労働省「休憩時間は法律で決まっていますか」「労働条件・職場環境に関するルール」
【参照判例・公刊資料】三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日・民集54巻3号801頁)/大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日・民集56巻2号361頁)/ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日・令和4年(ワ)第31750号・労経速2568号3頁)/イオンディライトセキュリティ事件(千葉地判平成29年5月17日・労判1161号5頁・労経速2318号3頁)
本ページは2026年10月15日時点の公的資料・公刊裁判例を確認して作成しています。仮眠・休憩時間の労働時間性は、個々の労働契約、勤務指示、体制、実作業の必要性等によって判断が異なります。本記事は情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。
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