警備業の労働判例・裁判例|待機時間・休憩時間

休憩中に食事やテレビ視聴ができても、「いつでも警備対応できる状態」を求められていれば、待機時間全体が労働時間と判断されることがあります。

場外勝馬投票券発売所の警備員について、待機室での待機時間が労働時間に当たるかが争われ、待機中の無線・外出制限・制服着用・緊急対応の実態が重視された比較的新しい裁判例です。

待機時間休憩時間労働時間無線機施設警備未払残業代
執筆・監修:山田紘大(社会保険労務士)内容確認日:2026年9月14日

30秒で結論

この判例のポイント

裁判所は、待機時間中に食事やテレビ視聴ができ、無線機を外すことも可能だったという事情だけでは「休憩」とはいえないと判断しました。待機室で無線内容を聞ける状態、自由な外出ができないこと、喫煙時も制服・無線携帯を求められたこと、警備要領上の待機位置付け、実際に待機者がトラブル等へ対応していたことなどを総合し、待機時間すべてを労働時間と認定しました。

判例情報

裁判所・日付
東京地方裁判所 民事第19部/令和6年5月31日
事件番号
令和4年(ワ)第24337号
事件名
賃金支払請求事件(セントラル綜合サービス事件)
裁判結果
認容
主な論点
待機時間の労働時間性/未払残業代
出典
労働経済判例速報2568号16頁

どんな事件だったのか

警備会社と雇用契約を締結し、場外勝馬投票券発売所で勤務していた警備員8名が、待機室での待機時間は労働基準法上の労働時間であるとして、令和2年7月から令和4年8月までの未払残業代等を請求した事件です。

勤務は5時間・8時間・10時間などのシフトで、8時間勤務では少なくとも1時間、10時間勤務では少なくとも2時間について、会社が賃金を支払っていない待機時間がありました。争点は、この待機時間が「休憩」なのか、それとも使用者の指揮命令下にある「労働時間」なのかでした。

裁判所はどう判断したか

裁判所は、労働基準法上の労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、不活動時間でも労働からの解放が保障されていなければ労働時間になるという最高裁の判断枠組みを用いました。

本件では、待機室に警備本部等との無線機が置かれ音声を聞ける状態であったこと、待機中も制服を着用していたこと、喫煙所以外への自由な外出が基本的になかったこと、喫煙時も制服着用・無線携帯を求められたこと、警備要領に「規定配置人員を残し待機」等と記載されていたこと、来場者の体調不良やトラブル等で待機中の警備員も対応し、その頻度も少なくなかったこと等を重視しました。その結果、待機時間中は労働契約上の役務提供が義務づけられ、労働からの解放が保障されていないとして、待機時間すべてを労働時間と認めました。

読み方の注意: 判例は個別の事実関係を前提とした判断です。事件名や結論だけを自社へ機械的に当てはめず、下記の「判断を分けた事実」と現在の法令をあわせて確認してください。

判断を分けた事実

自由な外出ができない

喫煙所以外への外出は基本的になく、勤務場所から自由に離れられる状態ではありませんでした。

無線が常時届く環境

待機室にも無線機が置かれ、待機中の警備員にも警備本部等の無線内容が聞こえる状態でした。

制服・無線携帯

待機中も制服を着用し、喫煙所へ行く際も無線機を携帯するよう求められていました。

実際の対応頻度

体調不良、転倒、トラブル、開催中止等で待機中の警備員も対応しており、その頻度が少ないとはいえませんでした。

現在の実務で確認する法令

現在の確認の中心は、労働基準法32条の「労働時間」と同法34条の「休憩」です。休憩時間は、単に作業をしていない時間ではなく、労働から離れることが保障され、労働者が自由に利用できる状態になっているかを実態で確認する必要があります。割増賃金については同法37条が関係します。

重要: 「待機」「休憩」という名称、食事・テレビ視聴が可能という事情だけでは決まりません。無線・電話への応答義務、外出制限、制服着用、緊急対応の実績、現場要領の記載等を総合して判断されます。

警備会社に置き換えると

施設警備では、人員配置の都合から「休憩者も何かあれば応援する」という運用が常態化しやすく、ここが未払賃金リスクになります。元請・発注者側の警備要領や現場責任者の指示によって、休憩者が実質的に待機要員として扱われていないかまで確認する必要があります。

特に、休憩室に無線機を置く、休憩中も制服のまま、現場外へ出られない、全員対応の運用がある、といった事情が重なる場合は要注意です。

結論が変わり得るチェックポイント

  • 休憩中に無線・PHS・携帯電話を所持又は聴取する義務があるか
  • 休憩中に警備区域や建物から自由に外出できるか
  • 休憩中も制服着用が必要か、私服への着替えが可能か
  • トラブル・救急・発報時に休憩中の警備員も応援するルール又は慣行があるか
  • 警備計画書・警備要領・仕様書で「待機人員」「予備人員」等として人数に含まれていないか

警備会社の実務チェック

  • 現場ごとに「完全休憩者」と「待機要員」を明確に分ける
  • 完全休憩者には原則として無線対応・緊急応援を求めない運用を徹底する
  • 休憩の自由利用を妨げる外出制限・制服着用・連絡義務がないか実態調査する
  • 発注者の仕様書・警備要領と自社の休憩運用が矛盾していないか確認する
  • 休憩中に業務対応した場合は、対応時間を確実に勤怠へ反映する
実務上の考え方: 休憩の労働時間性は、就業規則だけでなく「現場で実際に何を求められているか」が決定的です。警備業では発注者側の要領・無線運用まで確認対象に含める必要があります。

この判例を使うときの注意

本判決は、待機室にいる時間が常に労働時間になるとしたものではありません。無線の状況、外出制限、制服、緊急時の役務提供義務、実際の対応頻度等が重なった本件の事実関係を前提としています。完全に労働から解放され、自由利用が保障されている場合は結論が異なり得ます。

出典・確認資料

判例情報は日本法令の判例データを調査資料として確認し、判決本文の事実関係・判断枠組みを独自に要約しています。日本法令の要旨・評釈等の編集文章を転載するものではありません。

本ページは警備会社の労務管理に役立つ一般情報を提供するもので、個別事件についての法的助言を目的とするものではありません。具体的な判断は、契約・就業規則・勤務実態・証拠関係・現行法令等によって異なります。

執筆・監修:山田紘大|社会保険労務士

警備会社での現場・管理・経営実務を踏まえ、警備業法と労働法の双方から、警備会社の勤務実態に落とし込んで解説しています。

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