夜勤・24時間勤務の法対応 ― 割増賃金の計算構造から仮眠時間の最新判例まで|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム Series.4

夜勤・24時間勤務の正しい法対応
― 割増賃金の計算構造から仮眠時間の最新判例まで

日またぎ勤務・36協定・変形労働時間制・仮眠時間の労働時間性まで、
警備会社が直面するリスクポイントを実務目線で整理します。

未払残業代リスク
労基法第36条・37条
仮眠時間の労働時間性
2024年上限規制 全面適用済

警備業における夜勤・24時間勤務は、一般的な日勤シフトとは異なる複数の法的論点が重なります。 「日またぎの計算ミス」「36協定の更新漏れ」「仮眠時間の一律除外」──これらがいずれも 未払残業代の大口請求に直結します。法律の基本構造を押さえ、実務を整備しましょう。

01

日またぎ勤務の大原則と割増賃金の計算構造

夜勤・24時間勤務で最初に押さえるべきは「1勤務の起算点」と「割増の重複」です(事実)。

🚨 よくある誤解 「暦日をまたいだから2日分に分割して考える」は誤りです。 日またぎ勤務は始業日の1日の労働として通算して計算します(労基法第32条)。 始業から8時間を超えた時点でその勤務の時間外労働が発生します。

割増賃金の種類と率を正確に把握してください(事実)。

割増の種類 割増率 発生条件 根拠条文
時間外労働 +25% 法定労働時間(1日8h・週40h)超過 労基法第37条第1項
時間外労働(月60h超)2023/4〜全社 +50% 1か月の時間外労働が60時間を超えた分(中小企業も2023年4月1日から適用) 労基法第37条第1項ただし書
深夜労働 +25% 午後10時〜翌午前5時の労働 労基法第37条第4項
法定休日労働 +35% 週1日の法定休日(または4週4日)の労働 労基法第37条第1項
時間外+深夜(22時〜5時) +50% 8h超かつ深夜帯(両者は加算) 同上(重複加算)
法定休日+深夜 +60% 法定休日かつ深夜帯(両者は加算) 同上(重複加算)
⚠️ 月60時間超の50%は2023年4月から中小企業にも全面適用(事実) 従来は大企業のみに適用されていた月60時間超の時間外労働50%割増が、2023年4月1日から中小企業にも全面適用されています(働き方改革関連法による改正。経過措置終了)。夜勤が常態化する警備業では月60時間超が発生しやすく、特に注意が必要です。
参照法令:労働基準法第32条(法定労働時間)・第37条(割増賃金)/働き方改革関連法(平成30年法律第71号)
02

36協定は"必須の盾" ── 上限規制の現在地(2024年全面適用)

36協定(時間外・休日労働に関する協定)がなければ1分の時間外労働も合法化できません(事実)。 締結・届出が完了して初めて時間外・休日労働が可能になります(労基法第36条)。 違反した場合、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます (労基法第119条第1号。刑法改正により2025年6月1日から「懲役」が「拘禁刑」に統一)。

規制内容 上限値 備考
原則上限(月) 月45時間以内 特別条項なし協定の上限
原則上限(年) 年360時間以内 同上
特別条項付き:年間上限 年720時間以内 休日労働を含まない
特別条項付き:単月上限 月100時間未満(休日含む) 100時間以上は即違反
特別条項付き:複数月平均 2〜6か月平均80時間以内(休日含む) いずれの期間でも80h超はNG
月45h超の回数制限 年6回まで 年7回以上は違反
📌 警備業は「一般業種」として全規制が適用済(事実) 2024年4月1日に建設業・自動車運転・医師など猶予されていた業種への上限規制が開始され、警備業を含む一般業種は2020年4月以降、上限規制がすでに全面適用中です。「特別条項があれば無制限」という認識は通用しません。1年単位変形労働時間制を採用する場合、原則上限は月42時間・年320時間と読み替えられる点にも注意が必要です(事実)。
⚠️ 36協定は毎年更新が必要 36協定の有効期間は最長1年です。期限切れのまま時間外労働をさせた場合、協定なしの状態と同じく労働基準法違反となります。更新期限の管理と、事業場ごとの締結・届出を徹底してください。
参照法令:労働基準法第36条(時間外・休日労働の協定)・第119条(罰則)/刑法改正(令和4年法律第67号・令和7年6月1日施行)
03

変形労働時間制を入れる"本当の"意味

変形労働時間制は、繁閑の波が大きい警備業のシフト設計において 割増賃金コストを適正化するための重要な制度です。 ただし要件を満たさなければ制度が不成立となり、かえってリスクが増します(事実)。

1か月単位変形労働時間制(労基法第32条の2)
1か月以内の期間を単位に、週平均40時間以内であれば日・週の所定労働時間を長短配分できます。時間外労働の判定は3段階で行います:①その日の所定時間超過→②その週の所定時間超過→③期間総枠(法定時間)超過。この順で判定し、重複カウントは除きます。

導入要件 就業規則または労使協定に、対象期間・起算日・各日の始終業時刻・休憩・休日を期間開始前に特定して周知・届出。この手続きを欠くと制度不成立です。
1年単位変形労働時間制(労基法第32条の4)
1か月を超え1年以内の期間で、週平均40時間以内に収める制度です。繁忙日を10時間に伸ばし閑散日を6時間に圧縮するなどで、割増の「不要ゾーン」を最大化できます。

注意 1日10時間・週52時間が上限(原則)。連続労働は6日まで(特定期間は12日まで)。また原則上限が月42時間・年320時間に読み替えられる点を36協定設計に反映すること(事実)。
🚨 シフト表の事前特定が制度の命綱 変形労働時間制では「期間開始前に各日の労働時間を特定」することが絶対条件です。シフトを直前に組み替えて実際と異なる場合や、所定時間が不明確なシフト表では制度が無効となり、8時間超えがすべて時間外として一括精算されるリスクがあります。
参照法令:労働基準法第32条の2(1か月単位変形)・第32条の4(1年単位変形)/労働基準法施行規則第12条の2・第12条の4
04

仮眠・手待ち時間の取り扱い2024年新判例

警備業で最もリスクが高い論点の一つが仮眠・手待ち時間の取り扱いです。 「仮眠時間は労働時間から除外する」として賃金不払いを続けると、 過去の未払残業代+付加金の一括請求に発展します。

🚨 最高裁の確立した基準(事実) 不活動仮眠時間であっても、「労働からの解放が保障されていない場合には労働時間に当たる」(大星ビル管理事件・最高裁平成14年2月28日判決・民集56巻2号361頁)。この判断は現在も維持されており、実態判断の基準となっています。

仮眠時間が労働時間か否かは、以下のフローで実態を確認します。

1
仮眠中に「即応義務」があるか

警報発報・緊急電話等に即対応することが求められている場合、たとえ実際に対応がなくても指揮命令下にあると評価されます。制服の着用継続・防災センターからの離席禁止も同様。

即応義務あり → 労働時間と判断される方向
2
何名体制か・他の警備員が交代対応できるか

1人体制の場合、仮眠中も事実上の唯一の対応者として拘束されており、労働時間性が認められやすい。2人以上の交代体制で、発報がほとんどない実績がある場合は「解放が保障されている」と判断される余地があります。

1人体制 → 強く労働時間方向 複数体制・発報なし → 解放保障の余地
3
実際の発報・緊急対応の頻度を記録で確認

呼出ログ・対応記録・勤務日誌等に実際の緊急対応履歴が残っている場合、「解放されていない」事実の証拠となります。逆に記録で頻度が低いことを示せれば解放保障の根拠になります。

対応履歴あり → 即応義務の実態を補強
📌 2024年新判例:ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)(事実) 警備員が仮眠時間中の割増賃金を求めた事案。
1人体制の期間:即応義務があり労働時間と認定。
2人体制の期間:仮眠中は1人が対応可能で、発報がほとんどなかったことも踏まえ労働からの解放が保障されていると判断し、労働時間性を否定。
また、会社が設定した固定残業代については基本給が最低賃金を下回っており無効と判断された(賃金等の計算方法に関する問題)。
→ 体制・記録・賃金設計の3点を同時に整備する必要があることを示した重要判例です。
⚠️ 監視・断続的業務の適用除外(労基法第41条第3号) 警備員の業務によっては、所轄労働基準監督署長の許可を受けることで労働時間・休憩・休日規定の適用除外を受けられる場合があります(断続的労働)。ただし許可要件は厳格であり、常態的な業務負担が重い場合は許可されません。現状の運用が許可なしで労働時間から除外している場合は早急に確認が必要です(事実)。
参照判例:大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日・民集56巻2号361頁)/イオンディライトセキュリティ事件(千葉地裁平成29年5月17日)/ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)
参照法令:労働基準法第41条第3号(監視・断続的労働の適用除外)
05

シフト設計の落とし穴:休憩・休日・夜勤明け

夜勤シフトには、通常の日勤にはない3つの設計上の落とし穴があります。

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落とし穴①:休憩の付与漏れ
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の途中に付与することが義務です(労基法第34条)。夜勤でも同じルールが適用されます。

NG 「仮眠があるから休憩はなし」→ 仮眠が労働時間とされれば休憩未付与となり違法。
対応 仮眠時間の労働時間性を明確化した上で、別途休憩時間を適切に設定する。また休憩は「自由利用が保障されること」が条件(同法第34条第3項)。
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落とし穴②:法定休日の"連続24時間"問題
法定休日は、毎週少なくとも1回、または4週4日以上付与することが必要です(労基法第35条)。判断は暦日単位(0時〜24時)が原則です。

NG 夜勤明け当日(例:翌朝9時退勤)を「休日」にカウントする運用→ その日は前夜からの勤務がすでに存在しており、暦日での連続24時間の休日とならない。
対応 4週4休制度を採用し、休日起算を明確化した上でシフト設計に組み込む。
!
落とし穴③:着替え・朝礼の「隠れ労働時間」
使用者の指揮命令下で行う制服への着替え・点呼・朝礼は労働時間に含まれます(推定:最高裁・下級審の傾向に基づく実務的整理)。「業務前の準備」として給与計算から除外しているケースは見直しが必要です。

実務対応 始業時刻を「業務開始時刻」ではなく「指揮命令が始まる時刻(着替え・点呼の開始時刻)」として設定することを検討してください。
参照法令:労働基準法第34条(休憩)・第35条(休日)
06

24時間勤務の計算例と実務チェックリスト

実務でよく用いられる24時間勤務のパターンで、割増賃金の発生区分を整理します(変形労働時間制なし・仮眠を労働時間に算入した場合の概算例)。

【計算例】9:00〜翌9:00(実働23h・基本時給1,300円の場合)
9:00 〜 17:00
通常賃金
法定内(8h)。割増なし
17:00 〜 22:00
×1.25
法定時間外(5h)。時間外25%割増
22:00 〜 翌5:00
×1.50
時間外25%+深夜25%=50%割増(7h)
翌5:00 〜 翌9:00
×1.25
時間外25%割増のみ(深夜帯は終了)(4h)
※1か月変形を適用し、当日所定を10時間に設定している場合:9:00〜19:00の10hは時間外にならず(割増不要)、19:00以降が所定超過となります。22:00以降は深夜が加算される構造は同じです。
※月の時間外合計が60時間を超えた分は50%割増に引き上げ(2023年4月1日〜中小企業含む全社対象)。
※上記は概算です。正確な計算は在籍者ごとの時給・所定・変形制の有無を踏まえて行ってください。
📋 夜勤・24時間勤務 実務対応チェックリスト
36協定・法的基盤
36協定を事業場ごとに締結・届出しているか(更新漏れがないか)
特別条項付き36協定の上限(年720h・月100h未満・複数月平均80h以内・月45h超は年6回まで)を把握し、実績を管理しているか
月60時間超の時間外が発生した場合、50%割増で計算しているか(中小企業も2023年4月〜適用)
仮眠・手待ち時間の管理
仮眠時間中に即応義務・場所的拘束があるか実態を確認し、労働時間に該当する場合は賃金を支払っているか
発報・緊急対応のログを記録し、仮眠中の対応実績を証跡として残しているか
複数体制の夜勤では交代表と発報ログで「解放が保障されている実態」を文書化しているか
シフト・賃金設計
変形労働時間制を採用している場合、各日の始終業時刻を期間開始前に特定・周知・届出しているか
夜勤シフト中に6時間超・8時間超での休憩を適切に付与しているか
法定休日(週1回または4週4日)を暦日ベースで確保できるシフト設計になっているか
着替え・点呼・朝礼の時間を労働時間として扱い、賃金計算に含めているか
深夜(22時〜5時)の割増賃金(25%)を正確に計算・支払っているか
1
日またぎ勤務は始業日の1勤務として通算。暦日で割るのは誤り
2
36協定は毎年更新が必要。上限規制は警備業を含む全業種に適用済
3
月60時間超の時間外は50%割増。中小企業も2023年4月から全面適用
4
仮眠時間の労働時間性は「即応義務の有無・体制・記録」で判断。一律除外は危険
5
変形制・休憩・法定休日の手続きミスは制度不成立や違反に直結する
📌 制度整備は"見える福利厚生" 夜勤・24時間勤務を課す業種だからこそ、割増賃金の正確な支払いとシフトの透明性は採用力・定着率に直結します。「支払いが不明瞭」という評判はSNSや口コミで広がりやすく、制度整備は防衛コストであると同時に採用投資でもあります。
【参照法令・資料】労働基準法第32条〜37条・第41条・第119条/働き方改革関連法(平成30年法律第71号)/刑法改正(令和4年法律第67号・令和7年6月1日施行)
【参照判例】大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日・民集56巻2号361頁)/イオンディライトセキュリティ事件(千葉地判平成29年5月17日)/ジャパンプロテクション事件(東京地判令和6年5月17日)

本コラムは情報提供を目的としており、個別案件の法的判断を保証するものではありません。具体的な労務問題については専門家にご相談ください。検索時点の情報であり、施行日・経過措置・最新改正については厚生労働省公式サイトで確認してください。
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