警備業の護身用具台帳・警備契約一覧表の保存期間はなぜ「無期限」といわれるのか|山田社会保険労務士事務所
警備業に関するコラム

警備業の護身用具台帳・警備契約一覧
保存期間はなぜ「無期限」といわれるのか

施行規則第66条に保存期間の記載がない2種類の書類。「規定がない=いつ捨てても良い」という解釈は危険です。
2書類それぞれのリスクの性質と、立入検査で指摘されやすい実務上の落とし穴を解説します。

警備業法施行規則第66条
保存期間規定なし(長期保存が前提となりやすい)
立入検査対策
下請契約の管理
📚 警備業コラム ― 法定備付書類シリーズ【完結編】
なぜこの2書類は「保存期間なし」なのか
護身用具台帳と警備契約一覧表は、保存期間が規定された他の書類とは「想定されるリスクの性質」が異なります。
護身用具台帳のリスク
護身用具の紛失・不正流出は刑事・行政上のリスクに直結します。「いつ・何本が・どこにあるか」を長期にわたりトレースできる状態が求められます。
警備契約一覧のリスク
警備ミスによる損害賠償請求は契約終了後数年を経て提訴されることがあります。「過去の契約内容・現場・条件」が民事上の証拠として機能します(実務上のリスクに関する助言)。

本シリーズの総論編では、法定備付書類8種類のうち保存期間に法定規定があるのは4種類(警備員名簿・指導計画書・教育計画書・教育実施簿)のみであることを解説しました。残る4種類(確認票・護身用具台帳・警備契約一覧表・苦情処理簿)は施行規則上の保存期間規定がなく、「廃棄してよい期限が法令に明示されていない」状態です。

本記事ではこの中から護身用具台帳と警備契約一覧表を取り上げ、それぞれが「長期保存を前提とする運用が求められやすい」背景と、立入検査で指摘されやすい実務上の落とし穴を整理します。

01

法令上の事実:8種類の保存期間の比較

📌 根拠条文(事実) 警備業法施行規則第66条第2項(保存期間の規定):
警備業者は、前項第1号に掲げる書類(警備員名簿)を当該警備員が退職した日から1年間保存しなければならない。同項第4号から第6号までに掲げる書類(指導計画書・教育計画書・教育実施簿)については、当該指導を行った日又は当該教育期が修了した日から2年間保存しなければならない。

条文上、保存期間が明示されているのは第1号・第4号・第5号・第6号の4書類のみです。第2号(確認票)・第3号(護身用具台帳)・第7号(警備契約一覧表)・第8号(苦情処理簿)には保存期間規定がありません。

書類名 保存期間 根拠
1号 警備員名簿 事実退職後1年間 施行規則66条2項
2号 確認票(欠格事由確認書類) 不明規定なし
3号 護身用具台帳 不明規定なし — ← 本記事
4号 指導計画書 事実指導日から2年間 施行規則66条2項
5号 教育計画書 事実教育期修了後2年間 施行規則66条2項
6号 教育実施簿 事実教育期修了後2年間 施行規則66条2項
7号 警備契約一覧表 不明規定なし — ← 本記事
8号 苦情処理簿 不明規定なし
⚠️ 「保存期間の規定なし」の正しい解釈 法令に保存期間の規定がないということは、「廃棄してよい期限が法令に明示されていない」ことを意味します。「いつ廃棄してもよい」という意味ではありません。廃棄判断の根拠がないまま書類を処分した後に事故・トラブルが発生した場合、「なぜその時点で廃棄できると判断したのか」を説明する必要が生じます。
参照法令:警備業法施行規則第66条第1項第2号・第3号・第7号・第8号・第2項(当事務所確認日:2026年5月19日)
02

「保存期間なし」が廃棄可を意味しない理由

保存期間の規定がない書類群(確認票・護身用具台帳・警備契約一覧・苦情処理簿)はいずれも、「事故・トラブル発生時に証拠として機能する価値が高い」という共通点があります。教育関係書類のように「一定期間が過ぎれば証拠としての必要性が低下する」という性質ではないため、廃棄期限を設けにくい書類群です。

護身用具台帳が長期保存を要する理由(推定)

護身用具(警戒棒・警戒杖・防刃チョッキ等)は、取り扱いを誤れば凶器となる危険な用具です。紛失・盗難・不正流出が発覚した場合には、「いつ何本購入し、現在どこにいくつあるか(または廃棄したか)」という履歴を遡って説明できる必要があります。刑事事件・行政処分に直結するリスクがあるため、廃棄期限を設けず長期にわたりトレース可能な状態にしておくことが求められると解されます(推定)。

業界団体の要望書等においても、護身用具台帳を含む保存期間規定のない書類について「警備業者が存続する限り保管し続けなければならない実態がある」として、保存期間の明確化・デジタル化を前提とした短縮検討を求める声が出ていることが確認されています(推定:要望書の具体的な番号・発行日は当事務所にて確認のうえ追記予定)。

警備契約一覧表が長期保存を要する理由(推定)

警備ミスによる損害賠償請求・契約内容をめぐる紛争は、契約終了後数年を経て発覚・提訴されることがあります(実務上のリスクに関する助言)。この場合、「過去にどこで・誰と・どのような内容の警備契約を結んでいたか」が民事上の証拠として重要になります。

💡 民法の消滅時効・会社法の保存義務との関係(参考) 【民法の消滅時効・事実】令和2年4月施行の改正民法により、債権の消滅時効は「権利を行使できることを知った時から5年間」または「権利を行使できる時から10年間」のいずれか早い方となりました(民法第166条第1項)。不法行為による損害賠償請求権は損害および加害者を知った時から3年間または不法行為の時から20年間です(同第724条)。

【会社法の帳簿保存義務・事実】会社法第432条第2項は、株式会社に対して会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を10年間保存する義務を定めています。警備契約一覧表とその付随契約書類はこれに該当し得るため、「契約終了後10年」という社内ルールの根拠として、民法の消滅時効(10年)と会社法の保存義務(10年)を組み合わせることができます。
参照法令:民法第166条第1項(債権の消滅時効)・第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)(令和2年4月1日施行改正)/会社法第432条第2項(会計帳簿等の保存)
03

護身用具台帳の実務と落とし穴

⚠️ 護身用具ゼロの会社の取り扱い(実務上の助言) 交通誘導警備(2号業務)のみを行う会社など、護身用具を1本も所有していない警備会社において「備え付けていないから帳簿が不要」と判断しているケースが立入検査で指摘されることがあります。

施行規則第66条第1項第3号は「護身用具の種類ごとの数量を記載した書面」の備付を義務付けています。護身用具が皆無の場合も、「当営業所には護身用具を一切備え付けていない」旨を明記した書面を作成し、営業所に備え付けておく運用が実務上安全です実務上の助言)。

護身用具台帳の実務で特に指摘を受けやすい落とし穴を整理します。

1
帳簿上の数と実数の不一致(増減の更新漏れ)
「数年前に警棒を10本購入」という記録がそのまま残っているが、現場で破損・廃棄し実際には8本しかない、というケースです。立入検査では帳簿記載数と実際の所持数を照合されます。購入・廃棄・紛失など増減があった都度、台帳を更新し履歴を残す運用が必要です。
2
複数の営業所間での護身用具の移動が記録されていない
本社営業所から他の営業所へ護身用具を一時的に移動させた場合も、移動の記録が必要です。「どの時点でどの営業所に何本あったか」が追跡できる管理が求められます(実務上の助言)。
3
護身用具の紛失を記録していない
現場で護身用具を紛失した場合、その事実を台帳に記録せず「なかったこと」にしている運用は危険です。紛失品が後日トラブルに使用された際、「紛失を把握し適切に対応した事実」の記録が会社の管理体制を示す材料になります(実務上の助言)。
参照法令:警備業法施行規則第66条第1項第3号(護身用具台帳の備付義務)
04

警備契約一覧表の実務と下請け管理の注意点

警備契約一覧表は単なる「顧客リスト」ではありません。特に下請け(再委託)に関する記載については、警察庁の指針に基づく指導対象となっています。

記載単位と必須項目

事実 施行規則第66条第1項第7号は「警備業務に関する契約ごとに」記載することを求めています。1つの依頼者と複数の業種(交通誘導・施設警備等)の契約がある場合でも、契約が1つであれば1行にまとめる運用が施行規則の趣旨に近いとされています。

❌ 指摘されやすいNG例 ・契約の開始日のみ記載され終了日がない(現在有効か判断できない)
・自社が他社の下請けに入っている現場について、元請け警備会社名の記載がない
・再委託した現場について、委託先名・関連書類の整備がない
・終了した過去の契約を独自判断で廃棄し、現在稼働中のリストしか残していない
✅ 実務上推奨される正しい運用 ・「1契約につき1行」で契約先名・期間・場所・方法・警備員数を網羅
・自社が下請けとして入っている場合も元請け会社名を記載
・他社へ再委託した場合は委託先名・業務内容を記載し関連書類を整備(警察庁指針に基づく運用)
・終了した契約は「完了契約」として別ファイル等に移し継続保存
⚠️ 下請け・再委託の記載(事実) 警察庁の「警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針」は、他社への再委託がある場合の警備契約一覧表について、再委託の態様・契約関係が分かるよう一覧表および関連書類を整備しておく必要があるとしています。

これは名板貸し・労働者派遣法・職業安定法違反の潜脱を防ぐための規制であり、下請け・再委託に関する記載漏れは立入検査での重点確認事項となります。具体的な記載内容・添付書類の範囲については、所轄警察の運用を確認してください(実務上の助言)。
参照法令:警備業法施行規則第66条第1項第7号(警備契約一覧表の記載事項)/警察庁「警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針について(通達)」(当事務所確認日:2026年5月19日)
05

社内保存ルールの構築と電子化の考え方

「廃棄してよい期限がない=際限なく紙が溜まる」という現実的な問題があります。法令上の根拠がない以上、廃棄が絶対に禁止されるわけではありませんが、廃棄するのであれば合理的な根拠が必要です。

1
護身用具台帳:会社存続中の保存を基本とする
護身用具の履歴は刑事・行政上のリスクに直結するため、会社が存続する限り保存することを基本とする運用を推奨します。電子化(スキャン・システム登録)を前提に、紙原本は一定期間(例:10年)経過後にデジタルデータのみを残す運用への切り替えも選択肢になります(実務上の助言)。
2
警備契約一覧表:「契約終了後10年」を一つの目安に
「契約終了後10年程度を保存」という社内ルールには、2つの法的根拠を組み合わせることができます。

① 民法の消滅時効(事実):改正民法(令和2年4月施行)の下での消滅時効は最長10年(民法第166条第1項)、不法行為は最長20年(同第724条)。

② 会社法第432条第2項の保存義務(事実):株式会社は会計帳簿およびその事業に関する重要な資料を10年間保存する義務があります。警備契約一覧表やその付随契約書はこれに該当し得ます。

この2つを根拠に「契約終了後10年間保存」という社内ルールを設定することで、推定ではなく事実に基づいた根拠のある保存期間を設定できます。なお、重大事故が発生した現場の契約については、通常の目安を超えて個別に長期保存する必要があります(実務上の助言)。
3
全書類の統一ルール:「5年保存」との整合
本シリーズの総論編でも推奨したとおり、保存期間が異なる書類の管理を単純化するために、社内ルールとして「全書類5年間保存」に統一する方法も実務上有力です。護身用具台帳・警備契約一覧については、5年を超えた期間についても個別判断で長期保存を継続する運用が望ましいと考えられます(実務上の助言)。
💡 電子化による長期保存の現実化 法定備付書類の電子保存については、近年の制度改正により実務上の選択肢が広がっています。電子化により紙の長期保管コストを大幅に削減できるため、「長期保存を前提とする書類」の管理手段として有力です。

ただし、対象書類・保存方法・立入検査時の提示方法の可否は、根拠法令および所轄警察の運用を確認した上で設計する必要があります。いずれの方法でも、立入検査当日に即時提示・印刷できる体制は必須です(実務上の助言)。
06

整備チェックリスト

📋 護身用具台帳・警備契約一覧表 整備チェックリスト
護身用具台帳(施行規則第66条第1項第3号)
護身用具を所持している場合、種類ごとの正確な数量が記載されているか(帳簿数と実数が一致しているか)
護身用具を一切備え付けていない場合でも、備付状況がゼロであることを示す書面が営業所に備え付けられているか(実務上の安全運用)
購入・破損・廃棄・紛失など増減があった都度、台帳が更新されているか
複数の営業所間での護身用具の移動について、移動の記録が残されているか
紛失があった場合、その事実と対応を台帳に記録しているか
警備契約一覧表(施行規則第66条第1項第7号)
すべての現行契約について、契約先名・実施期間・場所・方法・警備員数が記載されているか
自社が他社の下請けとして入っている場合、元請け警備会社名が記載されているか
他社へ再委託した場合、委託先名称・業務内容が記載され関連書類が整備されているか(警察庁指針)
終了した過去の契約も廃棄せず保存されているか
社内ルールとして保存期間(契約終了後10年等・会社法第432条・民法時効を根拠)を定めているか
共通事項
「保存期間の規定なし」を独自解釈して過去の記録を廃棄していないか
電子保存を導入する場合、所轄警察の運用確認を行ったか
立入検査当日に複数人が即時出力できる体制があるか
重大事故が発生した現場に関連する記録については、通常の保存期間を超えて個別に長期保存するルールがあるか
1
護身用具台帳(第3号)と警備契約一覧表(第7号)には施行規則上の保存期間規定がない。「保存期間なし」は廃棄可を意味しない(事実)
2
護身用具台帳は刑事・行政リスクへの備えとして、警備契約一覧表は民事・損害賠償リスクへの備えとして長期保存が前提となりやすい(推定・実務上の助言)
3
護身用具がゼロの場合も「備付状況がゼロであることを示す書面」を備え付けておく運用が実務上安全(実務上の助言)
4
警備契約一覧表は下請け・再委託がある場合、関連情報の整備が警察庁の指針に基づく指導対象となる(事実)
5
「契約終了後10年保存」という社内ルールは、民法第166条(消滅時効10年)と会社法第432条第2項(帳簿等の10年保存義務)を根拠として設定できる(事実に基づく実務上の助言)
【根拠資料・確認日】警備業法第45条(帳簿の備付け)、警備業法施行規則第66条第1項第3号・第7号・第2項(当事務所確認日:2026年5月19日)、警察庁「警備業者に対する警備業務提供委託に関する指針について(通達)」(当事務所確認日:2026年5月19日)、民法第166条第1項(消滅時効)・第724条(不法行為の時効)(令和2年4月1日施行改正)、会社法第432条第2項(会計帳簿等の保存)。電磁的記録による保存に関する制度改正の詳細は所轄警察の運用をご確認ください。本記事は当事務所が上記資料をもとに整理・再構成したものです。個別案件への法的判断を保証するものではありません。
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