④夜勤・24時間勤務の法対応
1|“日またぎ勤務”の大原則
- 日をまたいでも1勤務は「始業日の1日」として扱うため、8時間を超えた時点から(その勤務の)時間外が発生します。暦日で割って誤魔化すのはNGです。
- 割増の重なりは加算:時間外25%、深夜(22:00–5:00)25%、法定休日35%。重なれば合算(例:時間外×深夜=50%)。月60時間超の時間外は50%(中小含め2023/4/1~)。
まずはこの2点を就業規則や賃金規程に明記しておくと、現場と管理部の認識ズレを潰せます。
2|36協定は“必須の盾”+上限規制の壁
- 36協定が無いと1分の時間外も合法化できません。締結・届出の上で初めて延長労働・休日労働が可能です(労基法36条)。
- 上限規制:原則「月45h・年360h」。特別条項でも複数月平均80h以下、単月100h未満など。1年単位変形の場合は上限が月42h・年320hに読み替えられます。
“特別条項がある=無制限”ではありません。夜勤中心の警備は上限規制に触れやすいので、変形労働時間制との抱き合わせが実務解です。
3|変形労働時間制を入れる“本当の”意味
- 1か月(または1年)単位で、繁閑に合わせて日・週の所定労働時間を長短配分でき、期間平均が週40h以内なら、その範囲は法定外になりません。
- 時間外の判定は三段階(1か月変形の例)
①その日の所定超過/②その週の所定超過/③期間総枠(法定)超過。この順で見ます。 - 採用・コスト面では、繁忙日を10hに伸ばし閑散日に6hへ圧縮する等で、割増の“不要ゾーン”を最大化しつつ、シフトの見通しも良くなります。
ただし前提条件あり:対象期間・起算日・各日の労働時間(始終業・休憩)・休日を“期間開始前に”特定して周知・届出。ここを外すと制度不成立。
4|“仮眠・手待ち”の扱い(警備ならではの急所)
- 労働からの解放が保障されていない仮眠・待機は労働時間。遮断されず随時対応義務がある・仮眠室待機の拘束がある等は“労働時間性”が認められやすい(大星ビル管理・最判2002/2/28)。
- 警備員の仮眠も労働時間と判断された下級審例あり(千葉地裁2017/5/17 イオンディライトセキュリティ)。運用を誤ると未払残業の大口化リスク。
「仮眠2時間=一律除外」は危険です。実態(発報頻度、自由利用の可否、離席可否)で線引きし、証跡(呼出ログ等)を残しましょう。
5|夜勤シフト設計の実務:休憩・休日・夜勤明けの落とし穴
- 休憩付与:6h超で45分、8h超で60分以上が法定。夜勤でも同じ。
- 法定休日は“連続24時間”の暦日単位。夜勤明け当日を休日とする運用は24時間の連続性を欠きやすいので要注意(4週4休の制度設計で調整)。
6|ケースで学ぶ:24時間勤務の計算例(簡略)
前提
基本時給1,200円/変形なし(通常制)/シフト:9:00–翌9:00、休憩1h(19:00–20:00、仮眠扱いなし=労働からの解放が不十分として労働時間に算入しない例外無し)
実働:23h。割増の考え方のみ示します(概算)。
- “1勤務=始業日の1日”なので、9:00から17:00で8h、17:00以降は時間外。
- 深夜は22:00–5:00(7h)。
- 割増区分
- 17:00–22:00:時間外25%
- 22:00–翌5:00:時間外25%+深夜25%=50%
- 5:00–9:00:時間外25%
(法定休日にかかれば+35%、月60h超なら時間外は**50%**に引上げ)
※1か月変形を入れて、当日の所定を10hに設定しておけば、17:00–19:00の2hは時間外になりません(期間総枠の管理前提)。ただし19:00以降は所定超過→時間外、さらに22:00以降は深夜が加算。
7|導入しないデメリット(数字で効きます)
- コスト増:夜勤は8h超が常態化し、時間外+深夜の“ダブル割増”が積み上がる。月60h超で50%適用の確率も上がる
- 法的リスク:36協定不備・上限規制違反、仮眠の扱い誤りで未払残業の一括請求。
- 採用・定着悪化:「支払い・シフトの不透明さ」はSNS・口コミで直撃。制度整備は“見える福利厚生”です)。
夜勤や24時間勤務という厳しい現場だからこそ、制度の整備は欠かせません。36協定や変形労働時間制を「守りの義務」として捉えるだけでなく、「人を守り、会社を伸ばす仕組み」として活用することが、結果的に採用力・定着力を高める最短ルートです。